하나하키병과…

花吐き病と…

하나하키병과…

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12756355

続かない思いつきの話を投げ込む、みのじ倉庫へようこそ。(・∀・)

今回は前から書いてみたかった花吐き病がお題です。
相変わらずのふんわり解釈&捏造設定がありますので、駄目そうなら回れ右!ですよ!

よう(→)←ちか+よし、な感じで。

ちょっと暗い話になったけど、ようちかはそのうちくっつく。
善子はうちの愛情激重なさくらうちさんがヨシヨシしてくれるだろう、きっと(;^ω^)

 

 

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「ぐっ…ゲホッ…かはっ……」

喉の奥から込み上げてくる吐き気に逆らうことなく口からソレをぼろぼろと撒き散らかす。
じわりと滲んでくる涙を拭うことも出来ないまま、ようやく止まった吐き気にホッと息をついた。
いつまで経っても吐くのはなれないなぁ、と口の中にペタペタと張り付いたソレを舌で掻き集めペッと吐き出す。

「は、あっ…」

ほとんど人が来ない校舎の端っこの空き教室の一つ。
その中でぺたんと座り込んだ状態で目に映る鮮やかな色彩が作り出す床の惨状に、自分がやったことながらため息が出てしまう。

目の前に散らばるいやに鮮やかな色の花びら。

この花びらが何の花のものなのか、どんな意味を持つものなのか、調べることなんてとうの昔に止めてしまった。だって思い知らされるだけだから。自分の気持ちを。


『花吐き病』


正式にはなんか難しそうな名前だった気がするそれはいつの間にかこの身を蝕んでいた。
花を吐くこの病気にいつなったのかは分からない。
けれど10台から20台の年齢に多く現れているこの病気は原因だけははっきりしている。

片想いを拗らせること。
それがこの病気の原因。

それ以外でも花吐き病の人が吐いた花を触ったら感染するみたいだけど、感染しても片想いを拗らせなければ発症はしない。
そんなものに触った記憶はないし、触っていたとしても結局は発症しただろうなって思う。
拗らせているとまでは思ってなかったけど、自分の片想いは十分に理解してた。


初めて花を吐いた日。混乱の中でネットの情報を探して花吐き病に行き着いたときからこっそりと、人目につかない場所を探すようになった。
浦の星は生徒数が少ないから空き教室はいっぱいあって、その中でも特に人が来なさそうな教室を隠れ場所にした。
見られたくないから。花吐き病だと知られたくないから。だから誰の目にも触れないところで花を吐き、吐いた花は絶対に処分する。

だって片想いを拗らせている、だなんて知られたい人間がどこにいるというのか。

頭に思い浮かんだ片想い相手の姿に反応してか喉が詰まり、ケホッと咳き込んだ弾みでまた喉の奥から花びらが数枚零れ落ちる。

「笑うしかないよねぇ……」

自覚してはいたけどさ、ここまでなんてほんと笑うしかない。
片想いをここまで拗らせていたなんて。

吐いたあとの喉の痛みと体の怠さが抜けなくて、ただただぼうっと床の花を見つめる。早く片付けなきゃいけないのに、こんなとこ見られたら騒がれちゃうのに。
だけど動く気力もない。動こうという意思はあってもそれを体に伝わってくれない。

「今日もまた、ずいぶんと吐いたのね」

千歌さん生きてる?、と少しだけ呆れの混じった心配そうな声が上から降ってきた。
いつの間に来てたんだろ?気付かなかった。
動かずにいると床に向けていた視界に入り込んだ白い手が床の上の花びらを数枚摘み上げるのを止めもせずただ見つめる。
触ると移っちゃうから止めなきゃいけないのに、だけどその白い手の持ち主が誰か分かってるから止めることはしない。
ゆるゆると顔を上げれば摘み上げられた花びらが口の中に運ばれていくのが見えた。
もぐもぐと咀嚼されコクリと喉が動いて花びらが飲み込まれる。
うん、毎回見るたびに思うんだけどさ。言っちゃうんだけどさ。

「毎回言うけど汚いよ?」

「床に直接落ちたやつは避けてるわよ」

そういう問題じゃないんだけどなあ。
私が吐いたのを分かってるくせに、それを平然と触ってさらには食べちゃうなんていつもながらおかしいと思うんだけど、言ったところで平然と言い返されるだけだろうから言わない。

「はい、お水」

差し出されたペットボトルをありがたく頂く。
蓋を開けて一口飲めば力の入っていた体が少しだけその力を抜いた。
コクコクと二口三口、散らばった花がむしゃむしゃと食べられるのを横目に水を飲んでいけば、ようやく強張った体が緩み、完全に落ち着けた。

「相変わらずみかんばっかり食べててもこっちはみかん味はしないのよね」

みかん嫌いだからありがたいけど、なんて言いながら摘んだ一枚の花びらをしげしげと眺めているけど吐いた花の味がどうこうとか言われてもビミョーな顔しか出来ないんだけどな……。

「よくお腹壊さないよね。……………………善子ちゃん」

Aqoursの中でただ一人、私が花吐き病だと知っている子。
みんなには知られたくないと、黙っていてほしいと頼み込んだ私に二つ返事で承知してくれて、いろいろフォローもしてくれていて助かっている。

もっとも、完全なる善意ではなかったけど。

「当たり前でしょう?この堕天使ヨハネが…」

「それはもーいーから」

「最後まで言わせなさいよ!」

プンプンしながら、それでもスカートのポケットからビニール袋を取り出して花びらを何枚かその中に入れた。

「今日のおやつ?」

「そ」

善子ちゃんが私を手助けする対価。
それが私の吐いた花。


善子ちゃん曰く。
善子ちゃんは『花喰い病』という病気に罹っているのだと言う。


そんなもの聞いたこともないと言えば、でしょうねと頷かれた。あとで調べてみてもそんな病気の情報は全然出てこなかった。
花喰い病というのは善子ちゃんが勝手に付けた名前らしい。
どんな病気かは読んで字の如く、花が食べたくなる病気。

「花を食べるのはまあ普通じゃないけどありえないことじゃないわ。食用花とかバラのジャムとかあるし、好みとか悪食とか、そういうものと受け入れられるものではある。…………だけど、この病気の厄介なところはそんじょそこらの花じゃダメなところなのよ」

想いを込めて育てられた花。想いの詰まった花。
そういうのを食べたいらしく、お店で売っている花ではあまり美味しそうに見えないし、実際に食べてみても味は微妙過ぎて進んで食べたいものじゃないって善子ちゃんは言う。
それでも食べないと禁断症状みたいなものが出るからと、仕方なくお店とかで買った花を食べていた善子ちゃんが出会った極上の花。

それが私が吐いた花だった。

そりゃそーだと思った。
片想いを拗らせた末に吐き出される花。
そんなものに想いが篭っていないわけがない。

こうして初めて善子ちゃんに花を吐いてるところを見られた時から、善子ちゃんは私のフォローをしてくれる代わりに私が吐いた花を貰って食べる。そんな奇妙な関係がスタートした。
吐いた後喉やお腹が痛くなったり体が怠くなる私に付き添ってくれたり水やゼリー飲料なんかを渡してくれたり、吐いた花を片付ける手伝いまでしてくれて、私の吐いた花が目当てだったとしてもものすごく助かってる。
特に奔放ながらも周りをちゃんと見てるから私がおかしくなってるのをすぐに気付いてくれて、ダイヤちゃんに怒られながらも休憩を言い出してくれる。おかげでみんなの前で花を吐くことは避けられているのでほんとにありがたい。
それに変に突っ込まれるとあたふたしちゃう善子ちゃんだけど難しい言い回しをよくするからか口は達者な方で、とっさの言い訳なんかも私がするより上手なのだ。

………頼りっぱなしも情けないけど、それでも分かってくれる人がいるってほんとーに心強い。
誰かに言えるようなことじゃないから余計にだ。


「いい加減、そろそろ腹を括ったら?」

散らばった花を一緒に片付けながら最近の決まり文句を口にする善子ちゃん。
暗にさっさと告白しろと言ってくるのも私のことを心配してくれてるからっていうのは分かってる。

「…………うん」

吐くのも体力を使うし日に何回も吐けばヘロヘロになってしまう。最近は吐く量も多くなってる気がする。心も体も限界が近いのかもしれない。
だけど。

「ごめん。もうちょっとだけ………」

告白すれば結果がどっちに転んでも花を吐くのは治まる。
けど怖いんだ。この想いが実らなかったら、なんて思うと怖くて仕方ない。
伊達に片想いを拗らせていない。振られたらきっと壊れてしまう。苦しくて苦しくて死んでしまいそうになるだろう。
それだけの想いを積み重ねてきたのだ。

「でも善子ちゃんは良いの?私が治ったら善子ちゃんどうするの?」

「別にどうもしないわよ」

これ以上は言いたくなくて話を変えた私に善子ちゃんは何も言わずに話を合わせてきた。
こういうとこ、ほんと良い子だって思う。

「吐瀉花しか食べられないわけじゃないし、美味しくなくても普通の花を食べればいいだけだもの。千歌さんの苦しみを引き延ばしてまで食べたいわけないじゃない」

まっすぐに、キッパリと言い切る善子ちゃんはかっこよかった。

「じゃあ今のうちに花びら取っといて冷凍保存でもしておく?」

冗談めかして言えばちょっと考え込んだ善子ちゃんがにやりと笑った。

「それもいいけど、あれよあれ。白銀の百合。白銀の百合が食べてみたいから吐いた時に取っておいてくれると嬉しいわね」

白銀の百合。
完治の証。両想いになれた証明。
まるで私がそれを吐き出すことを確信しているような口振りにじわりと心があったかくなる。

「白銀の百合かぁ~。どんな感じなんだろうね?」

「さあ?見たことないけど、そうね。…………きっと、とても美しいものだと思うわ」

きっと蕩けるような甘さなんでしょうね、とうっとりと笑う善子ちゃん。
お世話になってるし食べさせてあげたいなあ、とか思っちゃうのは花を食べる善子ちゃんの姿に慣れちゃったせいなんだろうか。



そんな善子ちゃんを見て、そういえばと思う。

花吐き病は片想いを拗らせるのが原因で発症する。

じゃあ善子ちゃんの花喰い病は。




一体何が原因で発症したんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花びらを一枚、舌の上に乗せる。
舌に感じるのは甘さと苦さ。焦がした砂糖菓子のような味わい。

千歌さんのしか知らないけど、吐瀉花というのはみんなこんな味がするのだろうか。

好きという感情がもたらす甘さと、伝えられないと焦れる苦み。
飲み込めば何かほんの少し、満たされる気がする。

けれどそろそろこれも味わえなくなるだろう。
いい加減限界が来ている。私が誤魔化すのも、千歌さんの心身も。
せっついてはいるけれど、こればかりは如何ともし辛い。

「いっそのこと曜さんに向けて吐瀉花をぶちまけてやろうかしら」

花に触れても感染はするが発症は必ずしも起こるわけではない。
だけどきっと曜さんなら発症するだろう。
私の勘がそう囁いてる。

「それにしても、羨ましい」

片想いをしている人間すべてが花吐き病になるわけじゃない。
拗らせて煮詰められ、凝縮した想いが花吐き病を発症させる。

それほどの想いを向けられる人が羨ましくて仕方がない。
その熱量を、私は欲している。


私は、想いに飢えている。
私は、愛情に飢えている。


これはいつの間にか私を蝕んでいた。
心のどこかに穴が開いていて、受け取っているはずの愛情がぽろぽろと零れ落ちてしまって満たされることがない。
器は満ちることなく、常に渇いている。
言いようのない不安に自分を痛め付けてしまいたくなる。

それを抑えるため、心の中を埋めるために常に誰かの想いを取り込んでいる。
目に見えないソレを得るために私は花という手段を取っているけれど、もし他にもこんな症状が出ている人がいるのなら花以外もありえるかもしれない。
想いが取り込めれるなら実のところなんだっていいのだろうから。

花喰い病と名付けたのは想いを吐き出す花吐き病とは逆に想いを貪り喰らうところから決めた名前。我ながらシンプルすぎるネーミングだけど、花吐き病の正式名称みたいに変に小難しい名前を付けられるよりは分かりやすくていいと思っている。



「誰でもいい。私を愛して満たして」





溺れて息が出来なくなるほどの想いを。
心に開いた穴をものともしないくらいの愛を。

代替品でしかない花を食みながら、ただただ渇望する。

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