番外編:もしもの世界③
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番外編③をお届けしますー!
今回はちょっぴりシリアス目?
善子&花丸による昔語り。そして梨子がアップを始めました?
善子の好きだった人については皆さんの想像にお任せ!ということで!
首里城、燃えちゃいましたね………。
悲しい(TωT)ウルウル
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「先生って今まで好きな人とか付き合ってた人とかいなかったんですか?」
いつか聞かれるとは思ってたけど、前置きもなくどストレートに聞いてきたわね、桜内さん。
さすがに交換日記は冗談だったのか、その代わりとでも言うように桜内さんは頻繁に保健室へとやって来るようになった。
最初は苦言を呈したのよ?5分10分の短い時間とは言え保健室なんてそう来る所じゃないし来ていい所でもない。ここは病人怪我人の来るところです。
なのに桜内さんときたら、
「え、私病人ですよ?」
「嘘つかないの。桜内さんが病人だったら世の大半の人間は病人になるくらいピンピンしてる癖に何を言ってるんだか」
「失礼ですね。こんなに立派な病人なのに。……『恋の病』という難病患者ですよ?」
「寝言は寝てから言いなさいな」
それは病じゃないわ。じゃない、わよ、ね?
「お医者さまでも草津の湯でも治らない不治の病なのに」
「なら保健室に来ても治らないわね」
「先生が薬になってくれれば良いんですけどね」
「保健室では薬の処方は出来ないから無理ね」
「がぶっと項を噛むだけの簡単な治療ですよ?」
などと宣ってくる始末。
そしてそれは治療じゃない。間違いなく治療と呼べるものじゃないわよ、桜内さん。
ふらりと現れては質問を投げかけたり聞いてもいないことをぺらぺらと喋っていくのを繰り返すこと両手両足の指の数では足りず、もはや日々のルーチンワークに組み込まれかけてたそんなある日。
冒頭の質問が来てしまったわけで。
「で、どうなんです?」
質問の返事を待つ桜内さんは何故にそんなにワクテカしてるの?
彼女いない歴=歳の数とかを期待してるのかしら?
だとしたらお生憎様だ。
「いたわよ、何人か」
「いたんですか!?」
「当たり前じゃない」
厨二病患者という黒歴史保持者でも好きな人も付き合ってた人もいたわよ。
ええ、いたのよ。過去形であるのは察して。
「今は?」
「いないわね。そんな気ないから」
「良かったです」
私の返事に心底ほっとしたような顔をされるとどうしていいか分からなくなる。応えてあげるつもりがないから余計に。
「どんな人達だったんです?」
「気になるの?」
「当たり前じゃないですか!」
興味津々で鼻息荒く詰め寄って来る桜内さんに思わず身を引いてしまう。
食いつき良すぎでしょ。
「今後の対策を練る時の参考に是非とも聞きたいです!主に先生の好みとか性癖とかを余すとこなく聞かせて頂けたら嬉しいです!」
「好みはともかく性癖は教えないから」
「そこを何とか!先生との夜の生活のために!」
「言うかおバカ」
両手を伸ばしてほっぺをぐいっと引っ張って口封じをする。フガフガと言葉になっているようでなっていない音が桜内さんの口からしばらく漏れていたが、私が頬を引っ張る手を緩めないことからようやく黙ってくれた。
夜の生活とか誰かに聞かれたら誤解を受けそうなこと言うんじゃないわよ、まったく。
それにしても。
「どんな人達だったか、ねえ……」
実のところ一人を除いて良い思い出がないのだ。
なので無難というか当たり障りないとこを言っておこう。
「まあβもいたしΩもいた。長く付き合った相手はいないし、番になりたい人もいなかったわね」
「一人も、ですか?」
「…………一人だけ、いたわね」
あの人とのことは色々良い思い出も悪い思い出もまぜこぜだけど、あの人のことだけで言うのなら良い思い出だったと言える。
「Ωで年上で、良いとこのお嬢様。終わりの見えていた恋だったけど、叶うのなら番になりたかったわね」
好きだった。番になりたかった。
けれど無理だと二人とも分かっていた。
終わりの見えていた、期間限定の恋だった。
それでも良いと、強がりから始まった恋だった。
「……どうして番にならなかったんですか?」
何かを感じたのか、どこかこちらを伺うように尋ねられた。
「言ったでしょ、良いとこのお嬢様だって。お家の関係やら何やらでね。私みたいなのはお呼びじゃなかったってこと」
「そうなんですか……」
桜内さんから気まずい空気が流れて来る。
聞いちゃいけないことを聞いたとでも思ってるのかしら。
確かに引きずっていないわけじゃないけど、私的にはあの人とのことよりもそれ以降のことの方が聞いてほしくないことだから別に気にしなくても良いのに。
「ま、それは分かっていたことだったからね。多少後ろ髪引かれたけど円満にお別れしたから気にしなくても良いわよ?」
だから努めて明るい声を出す。
本当は嘘だけど桜内さんが気に病む必要のないことだから。
「先生……」
「何かしら?」
「………………………………なら私、なかなか良い物件ですよ?」
「何がなのかしら!?」
「私の家、普通の一般家庭ですしめんどくさい人間関係によるしがらみもありませんし、先生が望んでくれるなら今すぐ番になるのもOKですよ!」
わざとらしい明るさでアピールしてくる桜内さんの気遣いにありがたく乗っかる。
だけど返事は決まっている。
「そこら辺はありがたいけど問題大有りだから遠慮するわね!」
「いえいえ是非ともどうぞ!」
「もうちょっと自分を大事にしよう!?」
「先生と番になるためにこれ以上ないほど大事にしてますからご安心を!」
「ちっともご安心出来ない………!」
さっきの気まずい雰囲気を払うように繰り返される言葉の応酬がなんだか楽しい。
内容はともかくとして。
桜内さんがもっと早く生まれてきてくれれば良かったのに。
具体的には同年代くらいで。
そうすればもう少し、何かが変わったのかもしれないわね。
なんて、ただの夢物語だけど。
ほんの少しだけ、そう思った。
いつフラグは建てられていたんだろうか。
あの頃の、あの人の話を桜内さんとしたせいなんだろうか。
「こんにちは。善子ちゃんの幼なじみの国木田花丸です」
「初めまして。津島先生の運命の番の桜内梨子です」
「…………………聞いてた通り、本当に強い子だね」
混ぜるな危険。
出会ってほしくない二人が出会っちゃったんだけどどうしよう。
何の予定もない休日。ふらりと出掛けた沼津駅前。
どうしようかと何気なく人の流れに目をやるとバチッと目が合ったのは我が幼なじみ。
ひらひらと手を振ればとてとてと近付いてくるずら丸はいつもの緩い笑顔でおはようと告げた。
それに同じくおはようと返してからいつもよりちょっとだけ気合いの入った格好にルビィとデートかと当たりを付ける。
「ルビィとデート?」
そう聞けばへにょりと下がった眉に違ったのかと内心首を傾げたんだけど、
「そうだったんだけど急なお家の用事でルビィちゃんが来られなくなったずら~……」
「あらら」
じめっとした雰囲気ではああ~、と大きなため息をついたずら丸がガックリと肩を落としてしょんぼりとするのを見てご愁傷様と頭を撫でる。
「だから本屋でも見てから帰ろうと思ってたずら。善子ちゃんは?」
「特に用事はないわね。何となくぶらぶらしてる感じ?」
「なら良かったらお茶でもしない?新しく出来たお店で気になってる所があったんだ」
「ん、いいわよ」
ずら丸の案内を受けながら歩き出す。
ずら丸が気になってるってことは結構期待できるお店だからちょっと楽しみだ。
こいつ昔から食いしん坊だったし、ずら丸の勧めるものってハズレがないのよね。
歩きながら、最近どう?なんて聞くほどずら丸とは会ってないわけじゃないから話はもっぱらルビィのことになるんだけど、惚気にしか聞こえない。
いや、ずら丸の場合惚気だと思ってない、ただの近況報告だと思ってるんだろうけど端から聞けばただの惚気です。ありがとうございません。
「ルビィちゃんが~」「ルビィちゃんは~」と続けられる甘ったるい話にすでにお腹いっぱいな気分になりながらも角を曲がること数回目。
向こうから曲がってきた相手とぶつかりそうになって慌てて立ち止まる。
「あっ、ごめんなさい………って」
「っすみませ………先生?」
謝りつつ横に避けようとして相手を見れば、ぶつかりそうになったのは桜内さんだった。
なんでここに?
「善子ちゃん?」
休日だから沼津に来ていてもおかしくないんだろうけど、思わぬ遭遇に固まってしまった私にずら丸の訝しげな声が投げられる。
桜内さんは私を見て、ずら丸を見て、それからにっこりとどこか目の笑っていない笑顔で私を見た。
「デートですか?」
「違います」
ひんやりした声に即答で否定する。
疚しいことは全くないのに浮気現場を見られたような居心地の悪さ。
私は悪いことなんて何もしてないのに内心ダラダラと冷や汗が流れる中、救いはずら丸からもたらされた。
「もしかして、この子が例の子なの?」
ありがとう!ありがとう、ずら丸!この時ほどあんたの絶妙な空気読まなさをありがたいと思ったことはないわ!
桜内さんからのヒヤリとした空気を気にせず声を掛けてきたずら丸に感謝しつつ首を縦に振る。
「ええ、そうよ」
そっかぁ、と桜内さんの前に立ったずら丸が軽く会釈する。
「こんにちは。善子ちゃんの幼なじみの国木田花丸です」
「初めまして。津島先生の運命の番の桜内梨子です」
にこにこと挨拶をしたずら丸に同じくにこにこと笑って運命の番をアピールする桜内さん。
それは言う必要なかったのではないかしら?
「…………………聞いてた通り、本当に強い子だね」
ずら丸が返答に困ってるじゃない。
ずら丸に引きつった顔をさせるとは、やるわね桜内さん。
でもマズイ。
桜内さんとずら丸の組み合わせはマズイ。
ずら丸は私の昔を、第二性に振り回された頃の私を全部知っている。
あの人とのことからそのあとのことまで、まるっと全部知られてしまっている。
そして私の話から桜内さんに興味を持ったらしいずら丸。
これはマズすぎでしょ?
ずら丸の口が軽いわけじゃないけど、桜内さんに余計なことをポロポロと零されたらたまったもんじゃない。
ここは早々に戦略的撤退をせねばならない。
「あーっと、ずら丸。そろそろ………」
「桜内さんも良かったら一緒にお茶でもどうかな?色々聞きたいし話したいし」
「ちょっ!?」
わざとらしく時計を見ながらずら丸を促しかけた途端、桜内さんを誘うずら丸に慌ててしまう。
「そうですね。私も先生のことを色々聞きたいですし、お邪魔じゃなければご一緒させてください」
「いやちょっと待って」
「決まりずら~………あ、ずらって言っちゃったずら」
「ずら?」
「口癖なんで気にしないでほしいかな」
「はあ……」
「さ、善子ちゃん。ボケッとしてないで行くよ」
「私の意見………」
一応私の意見も聞こう?聞いてお願い。
これも不幸体質の為せる業なの?こんなとこで出てこないで不幸体質。
せっかくの休日なんだから平穏に過ごしたいんだけど?
どこか楽しそうに歩いていく二人の背を、どんよりとした目で眺める。
これはもうずら丸が余計なことを言わないように目を光らせなければ。
その後、ずら丸が余計なことを言うのはだいたい阻止出来た、はず。
高校時代の厨二病をバラされはしたものの、あの人とのことも多少話されはしたものの、一番話して欲しくないことはバラされずにすんだ。
ずいぶん息が合った二人にハラハラしたものの、目的は達成できたのではないかしら。
ほっと安堵の息をつくと、ろくに味も分からなかった温い紅茶を飲み干す。
けれど私がお手洗いに立ったほんの僅かの時間にあの二人が連絡先を交換していたことに気付くことは出来なかった。
『こんばんは、梨子ちゃん』
昼間にも聞いた落ち着いた声がスマホのスピーカーから聞こえてくる。
「こんばんは、花丸さん」
昼間先生と一緒にいた先生の幼なじみの人。
先生の昔をよく知ってる人。
『本当はマルが話すのは駄目なんだろうけど、きっと善子ちゃんは話さないだろうから』
そう言って連絡先を交換しようと持ち掛けてきた花丸さんの言葉に頷いて、そして今、花丸さんに電話をしている。
『さすがに今日掛けてくるとは思わなかったな』
苦笑した花丸さんに多少の申し訳なさは感じたけど、でもどうしても気になって仕方がなかったんだからしょうがない。
思わせぶりなことを言った花丸さんが悪いということにさせてもらおう。
「気になって夜も寝られそうになかったので」
先生が話さないであろう過去。
あまり良くないものだと匂わせる方が悪いのだ。
『なるほど。じゃあ梨子ちゃんの睡眠の為にも話さないとね』
仕切り直すようにコホンと咳ばらいが聞こえ、
『善子ちゃんのことはどれくらい知ってる?』
「プロフィールと昔の事を少し」
『善子ちゃんの好きだった人のことは?』
「一応、聞きました」
そっか、とぽつりと呟いた後、柔らかな声が固く変わった。
『善子ちゃんがどう話したのかは知らないけど、昔の善子ちゃんは自分がαだっていうのを隠してた。善子ちゃんは厨二病だったけど自分が不幸体質以外は平凡で普通だって分かってて、だから自分がαなんて何かの間違いだって思ってたの』
『βの問題児。それが高校に入った頃の善子ちゃんの評価。そんな問題児を気にかけて何かと声を掛けてくれてた人が善子ちゃんの好きだった人。良家のお嬢様でΩだった。だからお家のこともあって、あの人が自由でいられる卒業までの間だけこっそりとお付き合いすることになって、でも幸せそうだったよ』
『けれどそんなささやかな幸せも、卒業まで続かなかった』
『お家の人に付き合ってることがバレて善子ちゃんがαだってことを知られて。普通ならαだと歓迎されるはずなのに善子ちゃんが平凡な能力しかない問題児のαだったのがあの人のお家の人には気に入らなかったみたいで。………結局、卒業を待たずして、お別れすることになったずら』
『でも、それだけならまだ良かった。その事がちょっとした騒ぎになったせいで悪目立ちしちゃった善子ちゃんはαだったことでさらに色眼鏡で見られるようになってしまった。αだということで人が寄ってきて、αらしくないって離れていく。その後何人かと付き合ったけどαだから付き合った、みたいな感じの人ばかり』
『だから善子ちゃんは諦めた』
『でもいつまでも昔の事を引きずっていてほしくない。善子ちゃんに幸せになってほしいんだ』
だから知ってほしかったと訥々と語られた話に怒ればいいのか呆れればいいのかお礼参りに行けばいいのか複雑な心境を持て余してしまっている。
結構重かった先生の昔。
咀嚼して咀嚼して、そうして最終的に出てきた言葉といえば。
「とりあえず、その付き合ってた方々にはお礼を言いたいですね」
多分花丸さんからすれば意味不明な、そんな言葉。
『……………何に対してかな?』
少しだけ怒りが滲んだ声。
気持ちは分からなくもないけど、だって。
「その人達が凄まじく馬鹿だったおかげで私は運命の番を失わずに済んで、さらに幸せにする余地が物凄くありあまってるんですから。お礼の一つも言うべきかな、と」
『…………………本当に、強い子だねえ』
声だけでも十二分に電話の向こう側で呆れた顔をしているのがありありと分かるくらいに呆れた声。でも、どこか温かくて優しい声だった。
『でも善子ちゃんは手強いよ?』
「望む所です。元より長期戦は覚悟の上ですので」
高校卒業までに口説き落とすのを目標にしていたんだから長期戦だろうが構わない。
『ふふっ。マルは応援くらいしか出来ないけど頑張ってね』
「欲を言えば手助けもほしいです」
『うーん、善子ちゃんに怒られない程度ならしてあげても良いかな?』
「ありがとうございます」
『その代わり、ちゃんと善子ちゃんを幸せにしてあげてね?』
「もちろんです」
電話を切ってベッドへと寝転がる。
憤りは胸に燻ってる。
先生が好きになった人にも、その後で先生と付き合った人達にも。
ただ花丸さんにも言ったように僅かな感謝もある。
そのおかげで先生はいまだにフリーのαだから、もし会うことがあるのだとしたらその横っ面に一発お見舞いするだけにしておこうと思うくらいには。
「さて、どうしようかな……」
先生を追いかけてるのは運命の番だからっていう部分がないわけじゃない。
だけど過去の人達と同じ穴の貉と思われるのは心外過ぎて絶対に嫌だ。
長期戦は覚悟の上。
なら、きっちりと。
違いを分からせないといけないよね。
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