요우쨩が치카쨩と出会う話。
最早ようりこじゃなくて, 桜内さんの부모バカ日誌になってんじゃんという自覚はあります。
(都合上シリ-ズにしましたが, 多分ちゃんとした完結にはならないと思います。基本一話完結で, 面白そうなネタを思いついたら, ちょくちょく書く感じでの不定期更新になるかと。いつの間にやら更新されずにフェ-ドアウトする予感が大いにしますが……)
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요우と出会ってからというもの, 리코の生活は大きく変わった。
悠久の時を生きる魔女である리코には時間という概念はほぼないに等しい。それは리코が森の奥底で厭世的な生活を送ることで拍車が掛かっていた。人の街に降りなければ, 国々の盛衰や, 人々の暮らしの発展, 技術の進歩といった時代的な時間の推移は知り得ない。見ることも感じることもできなければ, それはないも同然なのである。だから, よく言えば平穏に, 悪く言えば惰性的に暮らしていた리코だったが, しかし, 요우の存在がそれを変えた。
初めてのハイハイ。初めての離乳食。初めての掴まり立ち。初めてだらけのことを経験しながら, 日々成長していく요우の姿は, 森の奥底で閉じこもっていた리코に歳月というものを再認識させた。誰かの成長をほとんど最初から見守り続けることは, 리코にとって初めてのことで, 無論それは時にどう対処するべきか, 리코を大いに狼狽させたが, 요우の存在が리코の無味乾燥の生活を色鮮やかにしたのは確かだった。
初めて喋った言葉で, 自分の名前を呼んでもらえて歓喜したり(友人の악마요하네は「あれは最早狂喜の沙汰だった」と語る), 初めて歩けるようになった요우を「すごい! 天才! 요우쨩天才!」とベタ褒めしながら光魔法の応用でぱしゃぱしゃと写真を取ったり(요하네は「魔法をそんなことに使ってんじゃないわよ……」と呆れた), 初めて요우が夏風邪で寝込んだ際には, 요하네に縋り付いて「욧쨩, 私の魂あげるから요우쨩治して……!」なんてかなりアブない発言をしたり(勿論요하네は「ふざけんじゃない! ちゃんと看病すりゃ治るわよ!」で一蹴したが)。
요우にとっての初めては, それを見守る리코にとっての初めてでもあり, 리코と요우の二人暮らしはエピソ-ドが有り余るほどに賑やかなものだった。
そんなこんなで, 부모バカという言葉では足りないほどの부모バカを十分に発揮した리코の過分な愛情を受けつつ, 요우は大きな怪我も病気もなくすくすくと育ち――そして, 리코が요우を育て始めてから四度目の冬のこと。
요우はまたある“初めて”を体験することとなる。
夕飯を終えた後の静かな時間だった。ロッキングチェアに座った리코は요우を腕の中に収めて, 絵本を読み聞かせていた。海を舞台にした三人の勇敢な船乗りのお話の絵本は, 요우の四歳の誕生日に리코が贈ったものだ。数ある絵本の中でも, その物語は요우の一番のお気に入りになっていた。
「かじをとれ, さあ出発だ, と船長は言いました。海はどこまでも続いていて, 終わりはありません。彼らの未知なる冒険は今ここに始まったのです」
糸車を丁寧に手繰るような柔らかな口調で朗読しながら, 리코は요우を抱きしめる右手で, 時々ぽんぽんとお腹を叩いてやる(こうしていると, 요우は暖かくて落ち着いて, 리코の静かな声を子守唄にとろりと眠ってしまうのだ)。
暖炉の火のぱちぱちと爆ぜる音が優しく空間を満たしている中, ゆったりとした時間を過ごしていると, それまで絵本の文字をなぞる리코の指先をじぃっと追いかけていた요우が不意に顔を上げた。耳をぴくぴくっと動かす。ちょうど今湖から汲み上げたような純粋な色を持つ瞳で, 窓の方に不思議そうな目つきをやった。その様子に気づいた리코はすらすらと紡いでいた物語を止め, 「요우쨩? どうしたの?」と問いかける。요우は리코の顔を見上げて, 答えた。
「なんかね, へんなおとがきこえるの」
「変な音?」
리코が尋ねると, 요우はこくりと頷く。「お外から?」とまた訊くと, またこくんと頷く。리코は요우が向けた視線を辿るように, 窓を見た。外はもう日がどっぷりと沈んで夜になっている。動物の鳴き声もせず, とても静かだった。리코には요우が言う音など聞こえなかった。리코は訝しく思った。
これがもし普通の子どもの言うことであれば, 気のせいではないかで済ませたかもしれないが, しかし요우は犬の獣人である。五感は普通の人間の何倍も鋭い。리코はなんだか気になった。半分は魔女としての直感だったのかもしれない。それで, 絵本の朗読を中断し, 外の様子を見に行くことにした。
요우のことはお留守番させておこうと思ったのだけど, 「よ-ちゃんもいく-!」とマントを引っ張ってくるから, 仕方なく抱っこして, 一緒に外へと出た。
外は森然としていた。夏なら豊かな緑の香りがして, 虫や動物たちの鳴き声が聞こえ, 人がいない寂しさも忘れられるような自然的な活気があるが, 冬の今の時期は寒さのおかげで動物植物問わずありとあらゆる生物のエネルギ-を弱らせている。
目線を上に上げると, 黄金の月が金貨のように浮いていた。人を魅入らせる魔性の輝きだ。森の中が乾いて枯れているから, その輝きが一層強く感じられる。리코はその月を見て, そういえば, 요우を見つけたときも満月の夜だったと思い出した。
「どっちから聞こえるの?」
「あっちだよ」
小さな人差し指でぴょこんと指し示したのは, 湖の方だった。ますます요우を見つけた時と重なるようである。生憎と今回は“妖精のいたずら”はないけれど。
薄暗闇の中, すっかり枯れ木となった木々の合間を리코は歩き出す。月が出ているおかげで, 視界が全く効かないということにはならなかった。
歩を進めていくと, 요우が鼻をひくひくとし始める。
「においもする-」
「どんなにおい?」
리코が尋ねると, 요우は「ん-っとね」とちょっと考えてから答えた。
「森のにおいじゃないの。리코쨩のにおいじゃないの。なんか鼻がそわそわするの」
森の中で育ってきた요우は草木の匂いにも獣の臭いにも慣れている。地面いっぱいに茂る薬草の中に紛れるひと束の毒草の匂いも嗅ぎ分けるし, 数十メ-トル離れた獣の臭いすらも嗅ぎ取って, それがどの動物であるかも瞬時にわかってしまう。その요우が嗅いだことのないにおい。一体何なのだろう。리코はほんの少しだけ警戒心を強めて, 足を進めた。
やがて湖に近づくにつれて, 리코にも요우の言っていた変な音が聞こえ始める。ざりっ, ざりっ, と何か硬いものを削るような音である。요우の耳と鼻が好奇心を表すようにひょこひょこぴくぴく動く。리코は何かあれば요우を守れるように魔法発動の準備をしつつ, 慎重に近づいていく。
木々の太い幹の間を通っていくと, やがて, 水面が鏡のようになった湖の端が目に入る。そして, その湖畔でしゃがみこみ, ざりっ, ざりっと何かを振り下ろす人影も。
「!」
리코は眼を鋭くさせた。獣ではない。人間のようだ。だが大の大人にしては人影は小さすぎた。子どもか。しかし, こんな夜に子どもがこんなところにいるというのはおかしい。この近くに人里はあると言えばあるが, ここは『湖の魔女』たる리코が住む地。そのことは周知の事実として近隣の街や里にも知られている。触らぬ神に祟りなし, と大人が昼間に近づくことすら躊躇うのだ。この森に入ってくるのは, 遠い国からやって来て, 『湖の魔女』に関する噂を一切知らない無知な人間ぐらいである。
では, 今리코の前にいる人影は何なのだろう。旅の者にしては, 大掛かりな荷物を持っている様子が見えない。旅人が偶然迷い込んだという線は薄そうだ。
もしかしたら, あれは人ではないのかもしれない。魔物という可能性もある。
리코は表情を険しくして, 요우の姿をマントで隠す。顔まで覆われてしまって, 視界を奪われた요우は抗議するように「む-」と身体をもぞつかせたが, 리코が「静かにしてて」という意味合いでひと撫ですると大人しくなった。そんな요우に리코は一瞬目元を緩めてから, また引き締め直して, 人影の方を見やった。
「――だれ」
리코は普段요우に向けるものとは比べ物にならないくらいに低い音程で, 人影へと言葉を発した。人影は盗みの現場を見られた盗人のように, 身体を跳ねさせた。
「この湖に, 何の用なの」
리코はざっとわざと足音を響かせて, 人影へと近づく。人影がかたかたと震え始める。からん, と手に持っていたものが落ちる。月の下で見れば, それはスコップのようであった。他にも人影の傍にはおたまや, 穴の空いたバケツなんかが転がっている。리코は訝しく思いながらも, さらに言葉を発した。
「答えなさい」
その強い語調に命令され, 人影が怯える様子を見せながら, ゆっくりと振り返った。
「……っ……ふ, ぇ……」
月明かりの下, その顔が露わになる。みかん色の髪。ピンク色の瞳。それ以外に特殊な種族を示すような身体的な特徴はない。魔力も人並み程度しか感じられないから, 魔族の類でもないらしい。年はおそらく요우と同じくらいだろう。至って普通の人間の子どもだった。魔物ではないかと疑った리코の最悪の예상は外れ, それに微かな安堵を抱いたが, しかし, 何故子どもがこんな夜にという疑問がやはり残った。
それを問いただそうと, 리코が口を開きかけた時, 恐怖に涙を浮かべていたピンクの瞳が決壊した。
「……ぁ……ああああああん, おかあさああん, しまねえええ, みとねえええ!!!」
「ちょ――」
いきなり泣き叫ばれて, 리코は狼狽えた。
――だが, 女の子が泣いてしまったのも当然だった。
本人に自覚はないが, 真顔の리코は少し怖いのである。なおかつそれで「何している」と低い声で誰何されたら, 結構怖いのである。黒マントという如何にもな格好をしていたのも加算ポイントだ。まあ, 리코が少々尖った声を出してしまったのは, 傍に요우がいたからで, 子を守ろうとする부모のように外敵への警戒心が強くなっていたためなのだが……そんな事情はともあれ, さっきの리코は四, 五歳の子どもをガン泣きさせるくらいには超怖かったのである。
「まじょおおおおお! たべられりゅうううう!」
「た, 食べないから!」
「にんげんってのはこどものにくがいちばんやわらかくていいんだよねえふへっへへへ……とかいわれながらたべられりゅううう!」
「だから, 食べない! というか, 人間の世界での私のイメ-ジそんななの!?」
泣き叫ぶ女の子に, どうすればいいのかわからず, 리코はひたすらおろおろした。
困って, 弱りきった리코だったが, 子どもの泣き声に反応したのか, 리코の懐の中で요우がもぞもぞし始めて, ふと요우が泣いた時は, いつもどうしているかを思い出した。
そうだ! これしかない!と手頃な方向へ腕を向ける。――この時, もし악마でありながら악마とは思えないほどの常識的かつ良心的な리코の友人がこの場にいれば, それを発動させるのを止められただろう。けれど, 残念ながら今この時, 그녀はいなかった。故に, 리코の魔法は誰に阻まれることもなく, 発動された。されてしまった。
途端, 土がぼこっと盛り上がる。
「あああああ……ふえ?」
異変に気づいて, 女の子が泣き叫ぶのを一時中断する。
闇の中でぼこぼこと蠢く土の塊。ざわざわざわっと虫が草むらで動くような葉擦れの音。
たっぷりと時間を掛けて, それは誕生した。
「――……ォ……ォオ」
跪いた状態で生まれたそれは, 小さくともお腹の中に響くような音を産声として, その大柄な身体をのっそりと立ち上がらさせた。
子どもの細腕なら, 造作もなくへし折ってしまいそうなごつごつとした太い腕。どんな業物の剣でさえ, 貫けないような分厚い胸板。歩くたびに地響きが聞こえそうな堂々たる足。月の光を浴びて立つ, その姿はさながら森への侵入者を撃退するゴ-レム――かつて, とある악마が『もし真夜中にこんなものと遭遇したら, 悲鳴&気絶のコンボは免れない』と評した草人形のく-ちゃん, そいつである。
だがこれは, ただのく-ちゃんではなかった。四年前よりもさらに試行錯誤を加えて, 進化したニュ-く-ちゃんなのだった。見た目をさらに女の子っぽくするために葉っぱと小枝で模したスカ-トを着させてあるし(マッチョすぎる体躯のせいで, スカ-トではなくてアフリカかどこかの戦闘民族の腰巻きと表現した方がしっくりくるのだが), 子守唄を歌えるように発声機能だって付けてある(まだまだ試行錯誤中で, 今は超低音の「ヴォ…ァ……ヴ……」みたいな捻り潰したような声しか出ないのだが)。
このニュ-タイプな草人形を友人の요하네に「すごいでしょ? 頑張ったんだから!」と見せてあげたところ, 苦虫を噛み潰したような顔で「あ……ふうん……そう……」なんて微妙なリアクションしか貰えなかったのだが, しかし리코はこのく-ちゃんは出来る子だと自負している。요우が赤ん坊の時は泣かれてしまったけれど, あれはソレだ。対象年齢が少しずれていただけなのだ。その証拠に, 今やく-ちゃんは요우の一番の遊び相手にだってなっている。だから요우とほとんど年が変わらないはずの, この女の子にだって, きっと有効に違いない。
ひとまず리코がく-ちゃんにパ-ティ-プレイ用の一発芸を指示しようとする。しかし, その時になって, 女の子が静かになっていることに気づいた。
さすがく-ちゃん。子どもあやすのやっぱり得意だなあ, なんてやや自画自賛めいたことを考えていると, 沈黙していた女の子の身体がふらっと傾く。そして, どさりと地面に倒れた。
「…………あ, あれ?」
女の子は気絶していた。
マントの中で様子が気になって気になって仕方がないのか, もぞもぞごそごそしていた요우を地面に下ろす。리코はくったりと意識を失った女の子を抱き起こし, 身体をざっと見てみた。出血するような怪我をしている様子はない。幸運なことに森で獣たちに襲われはしなかったらしい。しかし, 細々とした擦り傷は多く見受けられた。木の枝にでも引っ掛けたのか, 衣服はぼろぼろになっていて, 指先は寒さにかじかんであかぎれができている。
それから, 리코は湖の方に眼をやった。湖は今の時期凍ってしまっている。水紋ひとつない真っ平らに美しい氷上だ。その氷上の端, 女の子が何事かをやっていたところでは, 氷面が僅かに引っ掻き痕があった。何かしようとしていたらしいとは窺えるが, それが何かはわからない。
何故, 子ども一人でこんな森の奥にまで来たのか。この湖で何をしようとしていたのか。その辺の真意は本人に訊くしかなさそうだ。
「ねえねえ, 리코쨩, この子だあれ?」
요우がとことこと近づいてきて, 리코の腕の中の女の子を見つめた。まん丸アクアブル-の瞳は興味津々だった。
「人間の子ね」
「にんげん?」
「そう, 人間」
요우が言っていた「嗅いだことのないにおい」というのが, 人間の匂いだったことを리코はもう理解していた。
“迷い子”として湖の畔に落とされてから, 요우はこの森から出たことがない。傍にいる人と言えば, 리코と時々召喚される요하네だけで, 人間とは出会ったこともなかったのだ。そう考えれば, 多種多様な種族が存在するこの世界で最も人口が多くポピュラ-な人族にさえ会ったこともなく, 反面稀少種族とされる魔女と악마にしか今まで関わったことのなかった요우は, とてつもなく奇特な育ちをしていると言える。
「요우쨩みたいに大きなお耳や尻尾もなくて, 욧쨩みたいにお空を飛べるような翼もないでしょう。こういう人のことを人間っていうのよ」
「리코쨩とおんなじ?」
요우がこてんと首を傾げて問う。리코は苦笑した。確かに리코にも尻尾や翼は生えていないが……。
「私とも匂いが違うでしょう」
리코がそう言うと, 요우は理解したらしい。
「리코쨩のにおい! おなかがすくにおいだもんね!」
どういう匂いなのだろう。喜んでいいのだろうか。리코は一瞬判断に迷ったが, 요우がきらきらした目をしつつ, 尻尾をぽふぽふ振るから, うん, 何はともあれ今日もうちの子可愛い……と考えるのを放棄した。
そんな茶番のしつつ, 부모バカな魔女と無邪気わんこ, プラスで草人形(女の子をビビらせてしまったことを引きずっているのか, ちょっと落ち込んでいる様子。見かけによらず心はナイ-ブなのだ)の一行は気絶中の女の子をパ-ティ-に加えて, 短い帰路に着いた。
家に帰っても, 毛布に包んで, 暖炉の傍に安置させた女の子から요우は離れず, 周りをくるくると歩いて, くんくんと匂いを嗅ぐ。まるで本当の犬のようである。
そうして, 数分経った頃, ようやく女の子が目覚めた。もぞり, と身動ぎして, 「む, むう……?」と目を開き, そして, ちょうど顔を覗き込んでいた요우の瞳とばっちり目が合う。
「…………」
「…………」
数秒, 無言で見つめ合った二人だったが。
「……ふ, ふまああああ!?」
女の子の仰天した声が迸る。いきなり間近でそんな大声を出されて驚いた요우は「きゃん!?」と情けない悲鳴を上げて, 慌てて리코の背後へと逃げる。리코は苦笑いしつつ, 요우をよしよしと宥めながら, 女の子の方を見やった。途端, 女の子はメデュ-サに見つめられたように固まった。ぷるぷると震えて, 瞳がまたじわ……としてくる。また食べられりゅうう!と叫ばれないように, なるべく優しい声音を意識して声を掛けた。
「起きた? 平気?」
ひう, と身を竦ませる女の子。
「た, たべ――」
「食べない。食べないから」
「だって, この森に入ったら, まじょのおなべでことことにられて, ぱくぱくたべられちゃうんだぞ-って, 美渡ねえいってたあ……」
치카, 食べられちゃう, おいしくないのに, 食べられちゃうぅ。と女の子がめそめそ泣き出す。ここまで怯えられると, さすがの리코も泣きたくなってくる。その時, 리코の後ろに隠れていた요우がひょいと顔を出した。
「……리코쨩, そんなひどいことしないよ?」
「……ふぇ?」
「리코쨩はまじょさんだけど, やさしいまじょさんだから, ひどいことはしないんだよ?」
女の子の涙に濡れた目が요우の幼い顔を見つめた。
「……ほんと?」
「うん, 요우쨩がほしょ-してあげる」
「やさしい……まじょ, さん, なの?」
そこで女の子がおそるおそると리코の方を見てくるので, 리코は「も, もちろん!」と頷いた。女の子はまだ少し怯えが抜け切らない様子ながら, 「……じゃあ」と口を開く。
「――みずうみの水をちょっとだけ, わ, わけて, くだひゃい……」
予期しなかったお願いに리코は「え?」と訊き返した。しかし, そんな리코を他所に, 少女はたどたどしく事情を話した。
少女の名前は치카というらしい。森を抜けた先の海沿いの港町から来たそうだ。港町からここまでとてつもなく距離があるというわけではないけれど, 子ども一人が気軽に来れるような近さではない。それでも, 치카が擦り傷をこさえてまでやってきたのは, 母부모が病に罹ったせいだった。
十日程前, 치카の母부모はなんの予兆もなく家事の途中で倒れた。それ以来ずっと高熱が続いていて寝込んでしまっている。原因不明で, 医者にさえ匙を投げられた。母の容態は日に日に悪くなって, 치카はもしかしたらお母さんが死んでしまうのではないかと怯えた。二人の姉は母の病を治そうとあちこち当たっているが, まだ幼い치카にできることはなかった。どうすればいいのかわからなくて, お母さんがいなくなってしまうかもしれないのが嫌で……その時に思い出したのだ。お母さんが語ってくれた『湖の魔女』の伝説を。
「伝説?」
리코が尋ねると, 치카はおずおずと首肯した。치카が리코に語った伝説の内容はこうだ。
――港町から北の方角, 今は人も通らなくなった古道を進むと, 迷いの森に入る。だが, その森に入ってはいけない。その森には恐ろしい魔女が住んでいるからだ。魔女は何百年も前からその森にいて, とあるものを守っている。森を奥へ奥へと進んだ先にある一つの美しい湖。魔女はそれを守っているのだ。その湖の水は魔力に溢れ, 飲めば身体はみるみる若返り, どんな病もたちどころに治ってしまう。その神秘の水を求めて, かつて多くの人々が森へと踏み入ったが, 誰も戻っては来なかった。魔女は湖の水を盗もうとする輩を全て魔法で消し去ってしまったのだ。だから, 森には決して入ってはいけない。魔女の領域に踏み入ってはいけない……。
と, 치카が話した内容は年齢の幼さのために若干言葉が簡易になったり, 説明不足になったところもあったが, 大体そのようなものだった。
伝説を聞かせてもらった리코は, まあ色々と思うところはあったものの, ふうん……, と少し考え込むようなポ-ズを取り, それから心の中で叫んだ。
(……私, そんな伝説初耳なんだけど!?)
리코쨩, すご-い, と話を簡単に信じ込んでしまった요우が無邪気なコメントをしてくるが, 反面리코は顔を引きつらせざるを得なかった。
「あの……치카, ちゃん? とても言いにくいんだけどね?」
「あ, あの치카のたからもの持ってきたので, これとこ-かんでっ」
ポケットから綺麗な貝殻を取り出して, それを差し出してくるが「そんな大事なものは貰えないからね」とやんわり制する。
「というか, その前にその伝説。言いたくないけど, それ……デマよ」
「でま?」
치카がわからないとばかりに首を傾げたので, 리코は簡単な言葉で言い直した。
「正しくないってこと。あの湖には特別な力なんてないわ。ごくごく普通の湖。飲み水としては重宝しているけれど, 飲んでも変わったことは何も起こらないもの」
おそらくその伝説は, 子どもが冒険心で森に入るのを抑制するための創作だ。리코は当然ながら伝説で語られるように森に入ってきた者たちに魔法を使ったことなどないが, 何故か人々にはアンタッチャブルな存在として畏れられている(これは리코が恐れられているというよりも, 単純に“魔女”という肩書きが恐れられているのかもしれない)。故に人々はこの森には近づこうとはしないし, その習慣を子どもたちにも浸透させていることは容易に想像がつく。そして, その方法として伝説を用いたのだ。頭ごなしに「森には魔女がいるから入ってはいけない」と言われるよりも, お話で魔女の怖さを語られる方が効果は高いのだろう。湖のことは, 話をより子どもの頭に残りやすくするために組み込まれた物語的な要素だと思われる。
だが, 今重要なのは伝説が創作された理由などではなく, 湖の神秘が嘘だった点であろう。少なくとも, 치카にとっては。
母부모を湖の力で助けられないと理解して, 치카は恐怖で滲ませていた瞳を今度は悲しみで濡らした。
「じゃ, あ……じゃあ……おか, あさん, は……」
その先の言葉は涙に消えた。しゃっくりをしながら, えぐえぐと泣き始める。
요우は치카の悲しみに共感してか, くぅん……と静かに鳴いた。そうして, 리코の顔を見上げる。人を思いやることのできるアクアブル-の瞳に리코は小さく笑い返した。「大丈夫よ」と요우の頭を撫でてやる。
요우は리코のことを「優しい魔女」と言ってくれた。ならば, そう在りたいと願うのが, 大人としての矜持であろう。
리코は치카の前にしゃがんだ。目線を合わせて,
「치카쨩」
と名前を呼ぶ。치카はほっぺも手の甲も涙でびしょびしょにしながら, 顔を上げた。手には擦り傷, 膝小僧には転んだ痕。母부모のためにこんな森の中へやって来た, 優しい優しい女の子。そんな子の切実な願いを叶えてあげなくて, 何が“優しい魔女”か。
「私を치카쨩のお母さんのところへ連れて行ってくれる?」
満月が輝く夜の中, 一つのシルエットが空を飛ぶ。
下から見れば, 月の光が逆光となって, まるで絵本の中の影絵のようにしか見えない。だが, もし仮に今, 偶然誰かがふと空を見上げて, そのシルエットを目撃したとしたら, すぐにそれが空を箒に乗って飛ぶ魔女の姿だとわかっただろう。それほどに典型的なイメ-ジにぴったりと当てはまるような光景だった。
霊的な満月。地上に風はなく, しかし上空のちぢれ雲は速く流れる。砕いた水晶を散らばらせたような星々が, 色が濃く深い夜の空を飾り立てる。そして, そんな中で人には届きもしない高さを悠々と飛ぶ魔女がいる。はためくマント。魔法の行使に余った魔力が軌跡のようになってきらきらと光る。その姿はまるで箒星のようだ。
見る人がいれば, 目を奪われ, 心を震わせて, ぞくりと鳥肌を立ててしまうほどに, 妖しい, そんなシルエット。
これで箒の柄先に黒猫がお行儀よくお座りでもしてたら, より一層らしいのだが, 残念ながら黒猫はいない。その代わりに리코の腕にすっぽりと抱き包まれる小さな存在が二つある。
「ふああああああ!」
「すっごおおいい!」
치카と요우の感激の声がびゅうびゅう吹く風の中で리코の耳に届いた。「たかい!」「はやい!」とまるで阿吽の呼吸のように二人は叫ぶ。「ちゃんと掴まっててね」と리코が注意すると, 「うん!」と二人の声が元気に重なって返ってきた。
森の木々を遥か下にして, 夜風を切る。速度はかなり出ているが, 요우と치카の二人はきゃっきゃと楽しそうな声を上げている。
港町の明かりが遠くに見えていた。もう間もなく着くだろう。
風で髪が後ろに流れ, おでこが丸見えになっている치카が「리코쨩って!」と夜風の吹く音に負けないように大きな声で言った。
「리코쨩って, すっごいまじょなんだね!」
それに返事をしたのは, 리코ではなく요우だった。치카に負けず劣らず大きな声で「うん!」と頷く。
「리코쨩はね, せかいでいちばんすごくてやさしいまじょなんだよ! 요우쨩はそんな리코쨩がだいすきなんだっ!」
리코は嬉しくなって, さらに速度を上げた。二人の歓声が夜空に響いた。
昼下がりの時間。家の中には甘い匂いが漂っていた。
리코がミトンをはめた手でオ-ブンを開き, 中を覗き込むと, いい塩梅にタルトレットの台が焼けている。鼻孔をふわっと撫でるような甘いバタ-の香り。리코は楽しげに鼻歌を歌いながら, それを取り出した。本来なら完全に冷めるまで待たなければいけないのだが, 時間短縮だ。冷却魔法でさっと冷ましてしまう。冷めた台の中にカスタ-ドと生クリ-ムを混ぜ込んだものを絞り袋で渦巻き状に絞る。全ての台に絞り入れたら, 皮をむいたみかんを一つずつ丁寧に乗せていく。仕上げに彩りのためのセルフィ-ユをちょんと乗せれば, みかんタルトレットの完成である。
ふう, と満足して顔を上げた리코は, 窓際に背中を預ける악마と目が合った。
「――お人好し」
그녀がそう言ったのが, 勿論お菓子作りに対してのことではないということを리코は理解している。욧쨩に言われたくはないんだけどなあ, と思いつつ, 리코は答えた。
「だって, 요우쨩が私のこと“優しい魔女”って言ってくれたんだよ? そりゃ頑張りたくもなるじゃない」
照れ照れと相好を崩しながら言う리코に, 요하네は「……부모バカね」と評価を入れ替えた。
요하네が言っているのは, 当然ながら리코が치카の母부모の病を治したことだった。久しぶりにこの家にやって来た요하네が窓の外を見て「……あれなに?」と訝しげな声を出したので, 事情説明をしておいたのである。
あの日, 静まり返った街へ到着した리코は, 치카が案内した家にこっそりと侵入し, 치카の母が寝ているうちに, 治癒魔法を使用した。魔法は素早く効いて, 寝汗を掻きながら, うなされていた치카の母は顔色が穏やかになり, 規則正しい寝息へと移った。
母부모が治癒したことに치카が「すごい! まるでまほうみたい!」と少々とんちんかんなことを叫んで, その声を聞き取ったのだろう。치카の姉らしき人(おそらく치카が“美渡ねえ”と呼んでいた下の姉だ)が「大声出すんじゃない! 母さんの具合が悪化したらどうすんの!?」と人のこと注意できるのかと首を捻りたくなるほどの怒号を上げ, 部屋に入ってきた。反射的に透化魔法を発動したことで, 辛うじて리코と요우は姿を見られることはなかったが, 肝を冷やしかけたことには違いない。
「てゆうか, あんたどこ行ってたわけ!?」と姉に耳を引っ張られながら, 「리코쨩が」とか「まほうで」とか치카が相手をしている間に, 리코は요우を連れて, こっそりと窓から逃げた。やましいことをしたつもりは毛頭ないが, 리코に関して, あのような伝説が流布しているくらいである。厄介なことにならないように, 『湖の魔女』の姿が大人に見つかるのは避けねばならなかった。
そんなわけで, 치카の母のその後の経過をちゃんと診ることもできずに帰ってしまったのだが, 後日聞いた話では, 翌日には日常生活も支障がないくらいに全快したという。치카の二人の姉は揃って首を傾げたが, 結局医者にも回復した理由はわからなかったらしい(『湖の魔女』が助けてくれたのだという치카の説明は, 子どもの寝言として信じてくれなかったようだ)。
事の顛末としてはそうなったのだが, 実はもう少し後日談がある。
리코としては치카の母を助けたことに見返りは全く求めてなかったのだけど, それは思わぬ形で리코――ではなく, 요우の方に与えられた。それは……。
「~♪」
리코はご機嫌に出来上がったタルトレットをテ-ブルへと運びつつ, 同時に魔法でティ-カップを用意しながら「욧쨩も食べる?」と尋ねた。すると, 요하네はわかりやすく顰めっ面を返した。
「……私, みかん嫌いなんだけど」
「仕方ないじゃない。あの子たちがみかん大好きなんだから。大人な욧쨩は我慢してください」
部屋の隅にはタルトレットに使ってもまだ余っているみかんが山積みになっている。그녀からのお土産だ。森の中にはみかんの木は自生しないから, 요우は数日前にそれを初めて口にしたのだけど, 一口食べてすっかりその味を気に入ってしまったらしい。今ではすっかり요우の好物になっている。
仏頂面になる요하네に, 리코はくすくすと猫が喉を鳴らすように笑って, 「嘘だよ。ちゃんと욧쨩用に野いちごのやつも作ってあるから」と言った。いちご, と聞いて, 요하네の表情がにわかにぱっと明るくなった。けれど, 리코がにこにこ顔を向けてくるので, 少し恥ずかしくなったらしい。「ふ, ふん」と軽い鼻息で誤魔化そうとする。
「리리もなかなかわかってるじゃない」
「飲み物はどうする? 紅茶以外もホットミルクとか用意できるけど」
리코が尋ねると, 요하네は「あ-……」と少し考える素振りを見せてから, 「いや, いいわ」と断った。
「タルトはお土産にもらってくから」
「ここで食べていかないの?」
요하네は肩をすくめて, 窓の外に視線をやった。外は小春日和と言うにふさわしい, 柔らかな日差しが落ちている。
「……요하네は타천사なのよ? 요우はともかく, あの人間の子に요하네の姿を見られるわけにはいかないもの」
요하네の視線の先。その温かな日だまりの中では二人の少女が駆け回っている。形のいい三角の犬耳とふさふさと揺れる尻尾の少女は勿論요우だが, その요우と一緒になって, 弾けるような笑顔で走る, みかん色の髪の少女がいる。他でもない, 치카だった。
치카の母が回復して以来, 치카はこの家を頻繁に訪れるようになっていた。森は獣がいて危険だから, 치카쨩のような子どもが一人で来ていい場所じゃないのよ, と리코が注意したものの, 치카はまるで意に返さず「だって, 요우쨩と리코쨩に会いたかったんだもん!」とぺかっとした満面の笑顔で返してくるから, 리코はこの子を言い聞かせるのは無理だと悟った。獣払いのお守りを渡して, 通ってきていい道とそうではない獣道を教えるのが, 리코にできる精一杯だった。
以来, 치카は三日に一度ほどのペ-スで訪問してくる。今ではすっかり요우とも打ち解けてしまった。
――そして, 結局それが요우にとって, ひいては리코にとってこれ以上ない見返りとなったのだ。
리코は요하네の隣に立って, 二人の幼い子どもが無邪気に遊んでいるのを見て, 意識するともなく, 口許に優しい笑みを浮かべる。
「何笑ってんのよ」と요하네が怪訝そうに言うので, 「요우쨩にお友達が出来てよかったなあって」と素直に答える。
「こんな場所だから, 今まで요우쨩の友達って, リスとかうさぎとか森の動物ぐらいしかいなかったのよ。それがちょっとだけ心配だったの。このまま요우쨩が大人になるまで, 同世代の友達が一人も出来なかったら, どうしようって思ってたんだ」
ずっと一人で厭世的な生活を送ってきた리코だったけれど, 요우を拾ってからは, この子を自分と同じ生活の中で育てていいのか, 少しだけ悩んでいた。子どもには無論保護者は必要だが, 同じくらい友達の存在も必要だろうと思っていたためだ。
리코は요우のために街に下りて, そこに住居を移すことも考えた。街でなら, 色んな人と触れ合え, 요우に良い経験をさせてあげられる。しかし, それも리코が魔女であるということが足枷になって, 決断には至らなかった。――だけど, 今, 리코の悩みは柔らかく解けた。
「おしゃべりできて, 一緒に遊んでくれるお友達が요우쨩にできて, 私すごくほっとしてるの。友達って, かけがえのないものだから。……욧쨩もそう思うでしょ?」
리코が隣の友人にやや含みのある笑みを浮かべて言えば, 요하네は目を逸らして, 「……そう, かもね」と返す。表面上では平静を装おうとしているが, 요하네の翼がどこか気恥ずかしそうにもじもじしているのを리코は見逃さなかった。
요하네は人が全く訪れない森の奥底で暮らす리코のたった一人の友人だ。그녀がいなければ, 요우に出会う前の数百年もの間, どれほど孤独で寂しいものになっていたか, わからない。
리코はふふっとまた笑みを零す。
「치카쨩치카쨩! 次, かくれんぼしよ!」
「うん! じゃあ, 치카が鬼やる-!」
外では二人の子どもの元気な声がしていた。
――人間の女の子, 치카。
요우の“初めて”の友達となった子。
願わくは, 그녀が, 리코にとっての요하네のように, 요우の大切な存在になってくれるように。리코はそう願った。
蛇足。
「……ところで리리, 一つ訊きたいんだけど」
「うん? なあに?」
「……部屋の隅っこで体育座りしてる, あのデカブツ」
「ちゃんと, く-ちゃんって名前で呼んであげてよ」
「……なんかさ, いつも以上にじめっとしてない?」
「요우쨩の一番の遊び相手っていうポジションを치카쨩に取られちゃって, 落ち込んでるんだよね」
「……なんかキノコ生えてるんだけど」
「感情がすぐ顔に出るタイプだから」
「…………(ゆらり)」
「うわ, こっち見た」
「…………(じわり)」
「うわっ, 目から草の絞り汁出した!?」
「……ヴァ……ァ……」
「え, なに?」
「ヴォ……オォ……」
「いや, そんなこと言っても, しょうがないでしょう」
「……ヴ, ヴ, ヴ」
「ああもう, 泣くんじゃない! く-ちゃん, あんた男でしょう!? めそめそ泣くな!」
「…………ア?」
「あ, ごめんなさい」
「(……会話成立してる)」
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