츠시마 요시코의 부등교의 나날1~10

츠시마 요시코의 부등교의 나날

津島善子の不登校の日々

https://www.pixiv.net/novel/series/839643

 

 

季節は春。

周りには桜が私の門出を祝うように満開で咲いている。

私はひとつ大きく深呼吸をして空を見上げた。


雲ひとつない快晴。

私は鞄から趣味であるタロットカードを取り出すと軽くシャッフルして一番上のカードを引いてみる。

ワンオラクルといって、一枚だけめくって占うタロットの中では一番単純で簡単な占い方法だ。

私は少し緊張しながら、そのカードを覗き込む。


・・・・愚者の正位置。


悪くない。  

私は誰にも悟られないように小さく拳を握り、ガッツポーズを作る。

このカードには直感、可能性や変化という意味がある。

過去を捨て新しい出会いを求める今の私にとってはかなり良いカードと言える。

「善子、そんなとこで立ち止まって何やってるのよ。私先に体育館に行ってるからね。入学式終わったら私はそのまま仕事行くから自分で帰ってちょうだい」

そういって一緒に来た母が私に話しかける。

恥ずかしいから入学式についてこなくて良いといったのに

もう高校生なんだから子供じゃないってのに。

善子「わ、わかったわよ。だから先に行ってて。恥ずかしいじゃん。親と一緒にいるとこ誰にも見られたくないし」


私がそういうと「はいはい」と、母は私を残して先に校門をくぐっていく。


この校門をくぐれば私は高校生に遂になる。

これから私の輝かしい学校生活が始まるはずだ。

だけど、私はこの校門をなかなかくぐれずにいる。

その理由として、私にはひとつ大きな悩みがあったからだ。


それは・・・・





私は・・・・
 



私には・・・・・・ 







私には友達がいないのよーー!!!!!!


ただ、友達がいない理由として別に見た目が酷いってわけでもないの。

むしろ結構・・・

いや・・・相当な美少女だと思っているわ。

だってさ。目も超大きいし、

この鼻の高さだって日本人離れしたくらいに高いし。

うん、やっぱり美少女だわ。



だからといって性格が悪いわけでもないと思うわ。


たしかに趣味はインドア系のものを好んで外にはあまりでないけれど

その割には案外明るい性格だし、あんまり物怖じもしないし。

笑顔動画という動画配信サイトで生放送配信をすることくらいできるくらいのコミュニケーション能力や話力はあるもの。




だから、自慢じゃないけど我ながらなかなかハイスペックなんじゃないかとすら感じているわ。




だから普通だったら友達も結構居てもおかしくはないはずなのだけれど

改めて言うわ。 





私には友達が1人もいないのよ






まぁそうなった理由はただ一つ。

中学時代にやらかしてしまった私の奇行が原因なのよね・・

あれでみんなドン引きしてしまったわ・・・

二度と思い出したくもない黒歴史。誰にも知られてはいけない過去が私にはある。





だから私の事を知る人物から離れるために、

中学があった沼津から遠く離れた今にも潰れそうな辺境にあるこの学校に来たのよ。


そうじゃなかったら誰も好き好んでこんな学校行かないわよ!

 


でも、そんな学校だからこそ

私のことを誰一人として知るはずがないこの学校だからこそ

ここでようやく私はリセットすることが出来るはずなのよ

長かった・・

本当に長く苦しく辛い中学時代だったわ・・





別に私はリア充みたいにみんなで放課後帰りに喫茶店でお茶していったりとか、

素敵な恋人と素敵な恋をするとか

そんな事は望んじゃいない。

私が望むのはただ一つ。

最低限たった一人でもいいから友達がほしい。





友達多い人にはわからないだろうけどこれって切実な望みなのよね。

体育の時の二人組

席替えの時に隣なった人のあの嫌そうな目

実験の時のグループ活動

修学旅行の班決めの時の余り物

などなど数え上げればキリがない。

あんな惨めな思いをもう二度としたくないわ!




学校というのは酷な場所

入学しておそらく一週間以内にはもうグループが出来上がる。

そして一度できたグループに、後から入るなんて事はほぼ不可能

だからいかに早く自分の居場所を作ることこそが大事なのよ。




・・大丈夫。




普通の人達がしそうな自己紹介の挨拶とか考えてきたし、

何回もシミュレーションしてきたんだもん。

普通に・・普通でいいのよ。

善子・・頑張るのよ。ここにかかってるんだからね・・

良いわね?善子 

あなた普通なのよ




私は・・普通・・普通・・普通・・普通・・普通

よし!私は普通!



さぁ!この校門をくぐって新しい人生が今から始まるのよ!

そうして門に足を一歩踏み入れた時後ろから話しかけられた



「あれ。あんた津島善子?」

見覚えのない顔の女の子達が私に話しかけてきた。

「誰々?なに?その人 友達?」

もう一人の人が私に話しかけてきた人に誰?と聞いている。

「いやいや、妹がさ、この子と同じ中学だったんだけど 沼津じゃ超やばいって有名な子でさ。この子がやったことがさぁ 」

私の輝かしい学校生活は始まることもなく速攻で終わりを告げたわ。















昨日私のことを知っている人に話しかけられて以降、

私は入学式以降の記憶がほとんど飛んでしまっていた。

後から、母から聞いたら入学式では理事長の話があったらしい。なんでもとても若い人だったわねーとかいったけどまったく記憶にない。

というか、クラスでの集まりで自己紹介したかすらも覚えていない。

そんなことよりも、私のことがクラス中に広まるんじゃないかと気が気でなかったためだ。






「早く起きなさい!!!!早く行かないと学校に遅れるわよ!」

母の声が私の部屋の外から聞こえてくる。

いつまで経っても起きてこない私にしびれを切らせた母が私を起こしにきたようだ。

だけど私は、母が呼びかけるよりもずっと前に目を覚ましていた。

いや・・ 目を覚ましていたというのは表現としてふさわしくないわね・・

なぜなら

あまりにも学校行きたくなさすぎて徹夜してしまったからよ・・・






昨日の夜から布団の中で、両親にバレずに学校を休む方法をスマホで検索していたら、朝になってしまっていた。





あああああっっ!!もうっっ!!!!


本当に行きたくない行きたくない!!!!


もう絶対私の中学時代の事がクラスに広まってるに決まってる!!!

あの忌まわしき中学時代





①善子ちゃん屋上から絶叫事件

全校集会の時に屋上から校長先生の話を遮って

「私はヨハネ。感謝するのです。人間達よ!これからあなた達は我が儀式によってリトルデーモンへと堕天して私に使役させてあげましょう!」

とメガホンで高笑いをした私は即座に先生5人に取り押さえられることになった事件だ。




②善子ちゃん文化祭黒歴史妄想脚本ノート事件

ホームルームで文化祭のクラスの出し物を何をやるか決める際に劇をやりたいと提案した私は、自信満々に

「ふ、リトルデーモン達よく聞きなさい。あなた達はこのヨハネの脚本をやらなくてはいけないのです。将来の大作家様の劇を体験できるなんてなんて幸せなことかと噛み締めなさい!」


って言ってクラスメイト全員に私の黒歴史妄想ノートをコピーして配ったという事件だ。

優しいクラスメイト達からやんわりと断られると

私は恥ずかしさから大声で泣き喚いたあげく


それならヨハネの占いの館がやりたいといって駄々こねてクラス全体を悩まさせた事件だ。


 


思い出すたびに恥ずかしさで消えたくなってしまう。ヤバすぎるでしょこの女・・・

しかも恐ろしいのはこれは私が中学時代に行った奇行のほんの一部だということだ。


口に出すのも憚られるほどの出来事もまだまだたくさんあるわ・・・




・・  


・・・・・・・


自分で言うのもなんだけど・・・

思い返せば返すほど、本当にこの女頭おかしいわ




私が絶対に悪い・・・

消えてしまいたい・・・






「善子!あなた本当にいい加減にしなさい!あなたが選んだ学校なのよ!?遠いんだからさっさと起きて!ほら!」

母がしびれを切らし、苛立ちの声をあげながら遂に私の部屋に入ってくる。

ベッドの中で毛布にくるまり、もぞもぞとうずくまっている私から母が毛布を引っぺがしてきた。

善子「イヤあああああ 学校行きたくない 行きたくない 行きたくないいいい。」


布団を取られた瞬間、

仰向けでジタバタと足をバタつかせ、奇声をあげながらわんわんと泣いている私を見て、  

母が絶句していた



「あなた・・・まさか・・・もうやらかしたの・・・・?昨日入学式があったばかりじゃない。あなたいったい何しに学校行ってきたのよ・・・・」

はぁ・・と脱力したように母は深く息を吐き、

右手で頭を押さえながら、 苦々しい表情で私に言う。



善子「そんなことしてないわよ!別に昨日は私は何もしてないもん!!!!」

やらかしたのは過去の私ではあるけれど・・・

嘘は言っていない。

「なら、さっさと制服に着替えて学校に行きなさい。絶対に学校休ませるなんてさせないからね」


















家を出た私は駅に行くとそこから出ているバスに乗り、内浦へと着いた。

バス停から学校までは、もう少し距離がある。

私は学校へと向かい学校に向かい一歩一歩歩いていく。

一歩近づくごとに私はどんどんと気が重くなっていく。

もし、自分の事が変な噂になっていたらと思うだけで軽く吐きそうになる。

私の隣では私と同じ浦の星女学院の制服の子が笑いながら、

足取りの重い私を追い抜いていく。

その度に

″くすくす”

と私の事を笑っている気さえしてくる。



やばっ・・吐きそうかも。


私は胃から喉へと迫り上がってくる酸っぱいものが出ないように手で口を抑える。



そんな気落ちしたまま歩いて行くとついに学校へとたどり着くとなにやら大声が聞こえる。

なんだろ・・・

私は声のする方向に視線を向けると


「スクールアイドル部!!!!春から始まるスクールアイドル部でーーーーーす!!!!!」

校門入り口でメガホンを片手にスクールアイドル愛と書かれた白いハチマキした茶髪の女の子が台の上で大声で叫んでいた。

いったいなによあれ・・・・・


「あなたも!あなたも!スクールアイドルやってみませんか!!!輝けるアイドル!スクールアイドル!!!」

校門を通っていく生徒一人一人にその茶髪の生徒は呼びかけている。

どうやら部活勧誘を行なっているらしい。


その生徒のすぐそばで日に焼けたせいだろうか、色素の抜けたアッシュ色の髪の生徒がおそらく勧誘のチラシを配っていた。

 



なんでこんなところで呼びかけるかなぁ。

ここを通らなきゃ学校に入れないじゃない。







私はああいう陽キャと言われるような活発そうなタイプの人間は得意ではない。


あのタイプの人間に絡まれるとロクなことにならないのは体験上私は身を以て知っている。

変に捕まってしまって、もし入部なんかさせられようもんならパシリに使われてしまうかもしれない。

私はコソコソとその場を離れようとするが

「はい!そこのあなたも、もしよろしかったらどうぞ」

善子「え!?あ、ど・・・どうも。」





まるで忍者のようにアッシュ色の髪の女の子が私に気配を感じさせずに近づき、入部募集中のチラシを差し出してきた。

突然のことに思わず私はチラシを受け取ってしまう。

渡された勧誘のチラシに目を落とすとチラシのど真ん中には【部員大募集!】の文字が大きく書かれ、その下に制服姿の女性と猫のイラストが描かれていた。




「ね、あなた新入生?スクールアイドルに興味ない?今から作る部活だから初期メンバーだよ!人間関係まっさらだから入りやすいよー。」

初期メンバー・・・・。

その言葉には少し心惹かれる部分もある。 

人間関係が出来上がったところに入るよりはまっさらな人間関係の部活に入る方が間違いなく入りやすい。




だけど・・・・





善子「スクールアイドル部・・・?」


私はその単語をポツリと口から漏らす。


「そう!学校でアイドル!でお馴染みのスクールアイドルだよ!」



スクールアイドル・・・か。


私の趣味はインドア的なものが多いため、その守備範囲の中にはアイドルというジャンルも少なからず入ってはいる。

だからスクールアイドルの事も多少知ってはいるが

学生がアイドルの真似事をする。ごっこ部活なようなものが世間一般的な認識だろう。



私も一応は女の子。


可愛い服を着て踊ってみたい気持ちもないわけではないが



スクールアイドル部というのは明らかにリア充、陽キャがやる部活だろう。


その中に私が入っていって馴染めるとは到底思えない。

こんな明るそうな人達に合わせて部活をやるなんて正直無理がある。


それに・・・

私はもう悪目立ちはしたくない。


あの中学のような体験を二度としたくはない。




善子「・・・・考えとくわ。」

「ありがとー!いつでも待ってるよ」

私がそういうとアッシュ色の髪の女の子はニコッと微笑む。




・・・考えとくいう言葉は嘘だ。


そういっておけば角が立たないからそういっているだけだ。

多分この人も私が来るなんて思ってはいないだろう。

それでも、こうやって笑顔で返されると胸は少し傷んでしまう。

私は気まずさからその場を逃げ去るように去っていくがすぐに後ろから


「あなたですの!このチラシを配っていたのは!いつ!なんどき!この浦の星女学院にスクールアイドル部なんてものができたのです。私は許可なんて出した覚えはありませんわ!」

とまた新たな叫び声が響いて来る。


「「せ、生徒会長!!!!!!こ、これはですね・・・!!!」」

「言い訳無用。今からあなた方生徒会室に来なさい!!!!」

「そ、そんなああああああああああ」



そうやってショボンとしょぼくれながら生徒会長と言われた長い黒髪の生徒の後を勧誘してた2人の生徒が歩いている姿を見て私は苦笑いを浮かべる。


・・・よ・・・よかったわ。入らなくて・・・

登校して2日目で生徒会長から目をつけられるなんてなっていたらシャレにならない。


しっかしまさか無許可であれをやっていたとは・・・


何も考えずに行動できる陽キャおそるべし。

やっぱり私とは絶対に合わない人種の人たちだわ。



でもこの人たちのようにアイドルをやってみたいと思ったらすぐに実行するバイタリティ メンタリティは見習うとこもある。


後のことばかりを考えて、結局何もできずじまいの私なんかよりよっぽど人生を楽しめている。

・・・羨ましいな。


私は自分の性格に嫌気がさし、更に憂鬱な気分になりながら校内へと歩みを進めていくと





「あー。善子ちゃんずら」

後ろからポンと背中を叩かれ、話しかけられた。私は驚きのあまりに飛び跳ねながら、

「うっぎゃあああああああああああああああ」

と自分でも驚くくらいの叫び声が出た。





だ、だだだだだだだ誰!??誰なのよ!?

なんで私に話しかけてくるの!!!???


慌てて振り向いた先には、見覚えのない淡い栗色の髪の色をした美少女が困惑した表情で突っ立っていた。


「そ、そんなに驚かないでよ。ほ、ほら私だよ。」

は?

だから誰よ・・・!?

こんな美少女、私の知り合いにはいないんだけど

「懐かしいね。またここでも善子ちゃんに会えるなんて思ってもみなかった。昨日も同じクラスになったからずっと話しかけようと思ってたんだけどタイミング逃しちゃって」

な、懐かしいだって。つまりこいつは私の過去を知る人物には間違いないということだ。

ということは私の中学時代の事を知っている可能性は高い・・・


終わりだ・・・。 




私の高校生活は完全に終了した。





私のことを知っているのが1人だけならまだしも

何人も存在してたんじゃもう私はこの学校に居場所なんてない。




さらば・・・浦の星女学院 



「幼稚園の時以来ずらね。ってあれ善子ちゃんは?どこいったずら。」

「はぁはぁ・・やっと追いついた。花丸ちゃん いきなり駆け出してどうしたの?」







学校から私は逃げ出していた。

行く当ては何一つとしてないのだけれどあそこで学校にいるよりはマシだ。

とにかく今の私はどこかに逃げ出したかった。




それから当てもなくブラブラとした私が行き着いた先は海岸だった。


私はそこでシートもしかずに1人腰を下ろす。



冷静になってくると自分がしでかしてしまったことの大きさに不安が大きくなって行く。


どうしよう・・・


学校休んじゃった・・・

私の家は、両親が共働きのため家に連絡が入ってたとしても誰も電話を取る人がいないからバレることはないと思う。


それでも、この学校をサボってしまったことの罪悪感と、もし親にバレてしまっていたときのことを考えると心が締め付けられるように辛い。


それでも、学校に行かないで済んだという安心感も得ているのは事実だった。



それから私はただずーっとその場所で海を眺めていた。

ふと気づくと、私から少し離れた位置に見たことのない制服を着た女子生徒が海を眺めていた。

その姿はまるで一枚の絵画のようであり、私は視線を奪われてしまう。

じーっと見つめていると、その生徒がこちらの視線に気づいたのか私の方に顔を向けてきた。

私は慌てて視線を外し、そっぽ向いていると何もなかったのかのようにその子はまた海岸へと顔を向け直した。


やばいやばい。

不審者と思われて学校に通報なんかされたらまずいわよね。

気をつけないと・・・




それからしばらく私も海を眺め続けているとバスが来る時間になりバスに乗るためにその場を立ち去った。



沼津についた後は下校時刻までブラブラと時間をつぶした私は家へと帰ってきた。


母は帰宅してきた後も私を叱ることもなくいつもの母のまんまであった。

私が欠席したことは誰にもバレてはいなかった。

私は学校を休んだ事がバレていないことに心底安堵していた。

しかし、また明日になれば同じ問題が続いてくることを考えると私は素直に喜べなかった。

むしろ、今日よりもずっと明日の方が更に学校には行きづらくなっているはずだったからだ。



そしてその言葉通り私は朝を迎えると完全に学校に行けなくなっていた。

この日から私は毎日制服に着替え、学校に行くふりをして、両親を騙す日々が始まった。

今考えると、きっとあの初めて休んだ日に私は心の底では、親にバレていて欲しかったのかもしれない。


そうしたらきっと無理矢理にでも休むな!と学校に連れて行かれ、なんだかんだでまだやり直せたのかもしれない。

私は制服に着替え、バスに乗る。

学校ではなく、海を観に行くために。












それからの私は学校をサボり海岸に行き、砂浜に一人座りながら海を見る日々が何日も続いていた。

朝は登校時間に目を覚まし、制服を着込んで母が作った料理を食べ、私と母は同時に家を出る。


母は車で職場へと向かい、私は学校に行くふりをするため徒歩で駅まで向かいバスに乗る。

そんな毎日だ。





海を見ながら考えるのは学校の事とこれからのことばかり。

私がクラスでどう言われているのかなんて軽く想像がついてしまう。 

入学式に一回来ただけでそれからずっと休み続けている私がクラスの話題の種にならないはずかない。

「なんで津島さん来ないのかなぁ」 

と私のことを知らない人もクラスの中にはいるはずだ。


しかし!

「私理由知ってるー。 あの子って中学の時にね。マジで頭おかしいんだよ。やったことがさぁ!」

私のことを知っている人がいる現状のことを考えればこんな風に嬉々として私の悪口を言い始めることは間違いないだろう。

経験上もうこういうのは何回も実践済みだ。



でも、これは仕方のないこととも言える。

悪口、陰口を言うのは人にとって何よりも楽しい。

悪口は、誰もが持てる共通の話題。コミュニケーションツールだ。

これはどの年齢層、人種でも変わらない事実。

どんな集まりだろうと、人が集まれば気に入らない人の悪口を必ず言い合う。





考えれば考えるほど頭をかきむしりたくなる。

あああああああッッッ!!!!!

なんで私は中学時代あんなことをしてしまったのよ!

これじゃ友達なんていなくて当たり前じゃない!


私にだって昔は友達がいたことはある。

そいつは私にとって生まれて初めて出来た友達だった。

そいつはいっつも私の後をついてきて、子分のような存在だった。

私は自分で言うのもなんだけどかなり早熟な子供であった。

勉強も、運動も同世代の子供に比べてなんでも出来た。

だからそいつからしてみたら私はなんでもできるスーパーマンのように映っていたのだろう。


私もその事に気を良くして、自分はなんでもできる。

こいつらとは違うんだという思想へと変化していった。

出来もしない事を出来ると良い、自分をいかによく見せるかばかりを考えていた。


でもそいつは私とは同じ学校に行くことはなく、私はひとりぼっちになった。

縁の切れてしまった私に残ったのは自尊心だけ強く、平気で見栄を張ってしまう愚か性格だけだった。




そんな私が他の子とうまくやれるはずもなかった。

それで私はさらに嘘をつき続け、誰かに構って欲しい一心からあんなことをし続けてきてしまった。



今のこの現状は全て自分が招いたことだ。

だけど、もう一度くらい、高校くらいは普通をやり直したかったな・・・



私はそんなことを思いながら途方にくれながら溜息をついて再び海を見つめる。


「・・・ねぇ、そこのあなた」

膝を抱えて座り込んでいる私に突然知らない女性が話しかけてきた。

私は突然のことに驚きながらもその女性へと目を向ける。話しかけてきた人は水色のワンピース着ており、大人っぽい雰囲気を醸し出している。年齢は大学生くらいだろうか。

赤い日傘の下から見える顔は非常に美しい顔立ちと長い茶色の髪が太陽の光に浴びてキラキラと光り輝いて揺れている。



【洗練】という言葉がしっくりくるようなこんな田舎には似つかわしくないような人だった。

「もし良かったら私と少しお話ししない?退屈で仕方ないのよ。」

そういうとお姉さんは日傘を閉じて、私の横に腰を下ろしてきた。



・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・・・


!?


え・・・!?

なに・・・・・!?

えっ えっ えっ どうしたらいいの!?

なんでこういうリア充そうな人って話しかけてくるの!?

私なんかと喋っても全然面白くないのに!


積極的な人間こわっっっっ!!



私は突然のことに動揺してしまい、いろんな言葉が頭の中で浮かび、何を言ったらいいのかわからず言葉に詰まってしまう。


こういう時は・・・・

これに限る。

私は得意技である聞こえなかったフリをする。

私はつまらない人間ですから別の人に話しかけてくださいという無言のアピールだ。

けれどそのお姉さんはにこやかに微笑んだまま私の顔をただ、じっと見つめている。



善子「なんで私なのよ・・・私と話なんかしても全然面白くないわよ・・?」

その雰囲気に耐えきれなくなって私はつい返事をその人に返してしまう。

「あなた暇そうにしてるんだもの。お話相手にでもなれたらなって」

「別に・・暇じゃないわ。」

「そーう?私には暇にしか見えないわよ。あなた最近いっつもここに来て海見ているじゃない?それでも忙しいの?」



!!!

ヤバっ!!!!

見られていた。

誰もいない海岸だったから油断していた。


「あくまでも私の予想だけど・・・あなた不登校だったりする?」


だめだ。

完全にバレている。この人に学校に通報される前に逃げないと。

私は急いで荷物を持って立ち上がろうとすると、

お姉さんにぎゅっと腕を掴まれた。



「安心して。学校に通報したりなんかしないわ。だから逃げなくていいわよ。」

善子「ほ、本当に?」

私は恐る恐るといった様子でお姉さんに質問する。

「ええ、だから座って。本当にやることなくて暇で退屈なの。」

善子「それなら、良いですけどお姉さん大学?とか大丈夫なんですか」

「大学って・・あぁこの格好のせいか こんな時間から私服だものね。私もあなたと同じ高校生よ。」

そういってあははとお姉さんは笑う。



あ、思い出した。



このお姉さん少し前に制服姿でずっと座っていた人だ。


梨子「私もあなたと同じ浦の星女学院の生徒で不登校児。名前は桜内梨子。あなたのお名前は?」

この日から私とこのお姉さんとの短くて奇妙な日々が始まることになった















梨子「ね? 自己紹介したんだから私もあなたのお名前知りたいな」

善子「わ、私の名前? そ、そんなの知りたいの?」

梨子「うん。とっても」

善子「い・・良いわよ! よくぞ聞いてくれたわ!この下賎な人間に我が名を教えて差し上げましょう!」

私は右の手のひらを自分の顔に押し当て、左腕をピシッと後方へと伸ばしポージングを決めながら言った。



善子「この人間界では津島善子と名乗っているわ。でもそれはあくまで仮の名!我が真名はヨハネ!そうヨハネよ!」

き・・・決まった。

我ながら物凄くカッコよく名乗れた気がする。

ドヤ顔で私の自己紹介のリアクションを見ようと彼女を見つめると

梨子「よはねちゃん?」

梨子と名乗った女性は顎に手を当てぽかん、不思議そうな顔をしていた。

そこで私はようやく正気に戻った



あ、

あああああ

ああああああああああああああ



や・・やってしまったあああああああ

なんてこと またやっちゃった!!!

ついいつもの癖で!!



あんなにもうヨハネと名乗るのは終わりにしようと心がけていたのにいいいい

せっかくこんな私に話しかけてくれたのに完全にドン引きしているじゃない。


あああああ

なんで・・・・・私っていつもこうなのかしら・・・



梨子「よはね・・よはねちゃん・・」

善子「あ、いやそのヨハネっていうのはあだ名みたいなもので、えっとあのそのなんていったらいいのか」

あたふたと慌てながらなんとか弁明しようとするがこんな美しい人だ。

ネットスラングなんてきっと一つもしらない人だろう。

そんな人にどう厨二病というものを説明したらいいのかわからずしどろもどろになってしまう。

そんな私を見て梨子さんは軽く微笑んで言う。

梨子「ふふ、とても可愛いあだ名じゃない。よろしくねヨハネちゃん」

善子「え・・?」




梨子「うん、最初はちょっと慣れなかったけど口に出してみるととってもいいあだ名ね。ヨハネちゃん。」

善子「あ、あの・・その」

梨子「ヨーハーネちゃーん」

善子「ご、ごめんなさい!う・・や、やっぱり、ヨハネは無しで!よ・・よっちゃんでお願い!」

梨子「なんで?ヨハネちゃんの方が可愛いのに」

キョトンとした顔で私に尋ねてくる。



な、なるほど。

超お嬢様をおもわせるようなこういう真のリア充はそもそも厨二病という概念はないから普通にそのまま通用してしまうのか

これは想定外だった・・・



善子「あ、あの自分で言うのは全然よかったんだけど、じ・・実際に初めて人からヨハネって言われると恥ずかしくなってきた・・」

梨子「恥ずかしがる必要なんてないのに」

善子「いいから!」


梨子「しょうがないなぁ。じゃあ交換条件。呼んであげるから私にも何かあだ名つけてくれない?ヨハネちゃんみたいな可愛いのがいいな」

善子「え、えええ・・・・」



どんな無茶ぶりよ。

私そういうアドリブとか苦手なのに。

急に振られてもそういうの答えるのってできないのに・・



善子「え、えーっと桜内梨子さんだからり、リリーとか?」

そういってぎこちなく彼女に笑みを見せるが彼女は俯いて黙り込んでいる。

梨子「・・・・・・」



ああああああもう!!!

ほら、やっぱこういう空気になる!

だから嫌だったのにいいい



梨子「リリー・・・良いわね。ヨハネちゃんにリリー・・・すっごくぴったりじゃない」

は?

善子「あの・・・?本当にそれで良いの?」

深く考えず、本当に冗談で言っちゃっただけなのに・・

梨子「うん すっごく気に入っちゃったわ」



えええ・・・

私が言うのもなんだけど

この人のセンス相当やばいんじゃないかしら



梨子「じゃあこれからよろしくね ヨハネちゃん」

善子「だからヨハネじゃなくてよっちゃんって呼んで!!!!」



















このお姉さんは自分の事を不登校だと言っていた。

でも、見た目は確かにお嬢様然としたおとなしそうな人ではあるけれど

こんな私に話しかけてきてくれるような人だ。

私と同じ人付き合いが苦手な人にはとても見えない。

本当に不登校なのかしら

もしかして私に気を使ってそう言っているだけなんじゃないだろうか

私は横に座っているこの自称一つ上の学年のお姉さんに視線を向ける。


善子「梨子さん」

梨子「リ・リ・ー !」

私の呼び方が不満だったらしく梨子さんは唇を尖らせ、強い口調で訂正してきた。

善子「・・リリー」

梨子さんもといリリーは、うんうんと頷いている。



梨子「よっちゃんが何を聞きたいのかくらいわかってるわよ。」

善子「え?」

梨子「どうせ、私が本当に不登校なのかどうか聞きたいんでしょう?」

図星だった。このお姉さんはなんでも私の事を見抜いているような気分になる。

善子「あの・・・その・・・」

バツが悪そうに俯き、なんていったらいいのかわからなくなった私に彼女は優しい口調で話しかける。

梨子「気にしないで。私だってあなたにそれを聞こうと思っていたところだしね」

善子「・・ごめんなさい。」

そういって謝る私の頭にポンポンと彼女が優しく触れる。



梨子「本当に気にしなくて良いのよ。不登校の理由は、まぁ色々と原因はあるんだけどね。一つの理由としては私元々は東京に住んでいてここには今年からの編入生なの」

善子「編入生・・・転校生って事ですか」

人間関係のリセットで、つまずいたということなのだろうか。

そういえば、この前ここで梨子さんを見かけた時には全然見かけない制服を着ていた。

あれはそういうことだったのか。



梨子「そ、転校生なの。だからあまり学校に行く気がしなくてね。でもここ内浦は私は好き。ここは空気が美味しくて良いところね。すごく・・すごく良いところね」

そういって梨子さんは目の前に広がる海を見つめている。

良いところ・・なんだろうか

私はこの静岡県で生まれ育ったからわかる。

この県には何もない。つまらない県。あるのはお茶やみかん、海くらいなところ。

あの何でもあるキラキラした東京の人が本当にそんな事を思うのだろうか。




梨子「さて、私の事は話したわ。次はよっちゃんの番ね。どうしてあなたは不登校になったの?」

う・・・

ここまで話してくれたんだからさすがに私も言わなきゃダメよね・・・

あああ・・・でもあまりにも恥ずかしくて言いづらい・・



善子「その・・・中学校の時に色々やらかしちゃって・・・その私の事を知ってる人が学校にいて・・」

私は出来る限り真相をはぐらかすように答える。

梨子「もし良かったら具体的に教えてもらえる?不登校同士何か助け合えると思うわ」

善子「言いたくない・・・」

梨子「なーに言ってるのよ。自慢じゃないけど私だって不登校なのよ。良いじゃない。今くらい見栄を張るのよしましょ」



本当に自慢にならない事を、そう胸を張って答える梨子さんに私は苦笑い浮かべつつ

誰にも言えなかったこの悩みを人に話してみようと思った。

善子「わ・・・笑ったりしないでね」

梨子「笑わないわ。安心して」

善子「その・・実はね」




私が話終えるとリリーは口いっぱいに空気を溜め込み、吹き出しそうにしたり

ときたま砂浜をバシバシと叩きながら悶えている。

だから話したくなんかなかったのよ・・・


善子「笑わないって言ったのにいいい!」

梨子「ご・・ごめんなさい!あまりにも面白くって!で・・・でもなんとか笑い声は頑張って抑えたわ!」

善子「それ笑ってるのと同義だからね!」

梨子「ふふ、ふふふ・・あはははははは!」

そういって今度は梨子さんは口から声を出して笑う。

もうっ!




ひとしきり梨子さんが笑い終わったあと、

梨子「あー・・・おっかしー。こんなに笑っちゃったの久しぶり。笑ったらお腹すいてきちゃった。これから私の家にお昼食べに来ない?割とここから近くなの。」

まさかの提案だった。

人の家に呼ばれる・・・

中学時代には1回もなかったイベントに手と足がかすかに震えだす

善子「・・い・・いいいい、良いけど・・」

梨子「良かったぁ。お友達ができちゃった。じゃあお母さんにLINEしておくね。今から友達連れて行くからって」

え?




善子「・・・リリーのお母さん今家にいるの?」

梨子「いるわよ?」

善子「・・・いやいやいや、それじゃあまずいでしょ!親に不登校バレたらどうするの!?」

梨子「バレるも何も私親公認の不登校だもの」

どんな親子よそれ!



善子「えええ・・・なにそれ・・羨ましいんだけど・・私はいつ学校から親に連絡行ってバレるかでこんなに悩んでるのに・・・」

梨子「あら、よっちゃんはそんなつまらないことで悩んでたの?」

善子「つまらないことって・・不登校児にとって親に勝手に学校サボってることバレることほど怖いことはないから!」

梨子「そんなのこうすればいいだけなのに」

そういうとリリーは、自分のスマホを手に取ると何かを検索した後どこかに電話をかけ始めた。




梨子「もしもし お世話になります。私 一年の津島善子の母です。担任の先生はいらっしゃいますか?」

ちょ!この人何してんの!?

梨子「 あ、先生忙しいところすみません。ええ、善子なんですがどうも今日も少し体調が悪くて休ませてください。はい、すみません。失礼致します。」

そういうとピッとスマホを通話を切ってドヤ顔で私に振り向く。

梨子「ってなもんよ」

善子「ってなもんよじゃなあああい!」




善子「なに勝手に学校に電話かけてんのよ!」

梨子「なーにいってるの。これで家に連絡行かなくて、怯えなくて済むでしょ?さ、うちに行きましょ。」

善子「えええ・・・」

この女マジかよ・・ヤバすぎでしょ

善子「リリー・・手慣れすぎでしょ・・」

梨子「よくやってたのよ 昔からね」















私は梨子さんに連れられ彼女の家に向かっている。

誰かの家に遊びに行くなんて小学校のとき以来だろうか。

でも、こんなお昼にもならない時間から遊びに行くなんてことは生まれて初めてかもしれない。



梨子さんと2人で歩いていると気づくことだが、梨子さんは、目立つ。

物凄く目立つ。

通行人とすれ違うたびに、目を引いてしまう。

何度も振り返って私たちの姿を見られる。



こんな田舎には相応しくないまるでモデルのように洗練された女の子が歩いているので当然っちゃ当然なのかもしれない。

それに隣を歩いている私も目立つ一因だろう。

こんな時間に学校の制服姿で外を歩いているのは私以外ほとんどいない。

そのためついついそんな周りの視線が気になってしまう。




このまま目立っていたら、警察になんでこんな時間に外を出歩いているのかと職質されるんじゃないかと不安になる。

私はビクビクしながら梨子さんの後をついていく。

私も梨子さんのように私服を持って来ればよかったなぁ。



そうやってしばらく歩いていると梨子さんはふと、歩く足を止めて顔をあげた。

梨子「桜もだいぶ散ったわね」

その言葉に私も桜を見上げる。



数日前まで確かに咲いていた桜並木の薄桃色の葉は地面へと落ちて絨毯のように敷き詰められている。

善子「入学式の時は、あんなに咲いてて綺麗だったのに」

梨子「ふふ、あれからだいぶ日も経ったもの。私達がこうやって学校を休んでいるなかでも季節の時間や世間の時間は止まらないってことよね」

善子「ああああああ考えたくないいいいい」




改めて自分の状況を考えるとキリキリと胃が痛みをあげる。

そうだ。世間ではもう授業は始まり、部活だって始まっている。

もう完全にコミュニティは形成されてしまったあとだろう。

なのに私達の時間は止まってしまっている。

私達だけが取り残されてしまっている。



善子「来年の桜が咲く頃私達どうなってるんだろ・・」

はぁ・・と溜息をついてぼやく私を見て梨子さんが微笑みながら言った。

梨子「その時にはよっちゃん留年してたりして」

善子「笑えない冗談やめて!!」














楽しそうに私を家へと先導する梨子さんの後をついていく。

だけど私はずっと前から、こんな光景を憧れていたのに彼女の家へと一歩一歩近づくたびに足が重くなっていくような気がしていた。

既視感だ。



あの学校に行くときと似たような気持ち。

不安で不安でたまらないあの時の気持ち。

梨子さんは凄く優しくて面白い人だ。

出会ったばかりの私を友達と言ってくれた。

だからこそ、私はうまくやれるか不安になってしまう。

こんな良家のお嬢様のような人だ。

私はちゃんと彼女のお母さんに挨拶できるだろうか。

変な印象を持たれてせっかく誘ってくれた梨子さんに嫌な思いをさせてしまわないだろうか。

そんな不安ばかりが私の心を支配しようとしていた。




昼になろうとする太陽が徐々に真上へと移動し始め、その強い光で私達を照らしだす。

善子「あつい・・・・」

普段全く運動もしないせいもありこうして歩いているだけでじわりと額に汗が滲み出す。

梨子「そうかしら。ちょうど良い日差しだと思うけど」

善子「おかしい・・・夜明けに見た漆黒の予言では運命の時は曇天と記されていたというのに・・・」




私は真っ黒なゴシックタイプの日傘とサングラス鞄から取り出し、傘を開く。

サングラスも装着すると世界一面 闇の中に染まっていく・・・

ふふ、闇こそ美しい・・・このヨハネにこそふさわしい景色・・・

梨子「よっちゃん、さっき私に不登校の理由暴露したせいか私に対してだいぶ素が出てきたわね・・・」

苦笑いを浮かべながら私に向かっていう。


梨子「今までずっとそのキャラクター抑えようと頑張っていたのね・・良いのよ・・今日は好き放題にしゃべっても。」

色々と察したらしく、何かぐっときたようで目頭を押さえ、哀れみを浮かべたような慈悲に満ちた笑顔で微笑まれた。





善子「ふ、この空からの光が苦手なのはヨハネは堕天したせい・・太陽の光で身を焼き尽くされてしまうわ。あぁあん・・なんて罪な体なの。」

自分の体を愛おしそうに抱きしめながら言うと

梨子「よっちゃんあなたはいったい何を言っているの・・・?」

横を向くと梨子さんはじとーっとした目で私を見つめていた。

完全にドン引き中である。

しまった・・・やりすぎた・・



梨子「私は太陽好きよ。太陽ってこんなに気持ち良いのに。体にね、太陽の光を浴びるととってもエネルギーを貰える感じがするわ。」

善子「えー・・・太陽の光浴びるとなんか体が痒くならない?ピリピリする感じ。出来ることなら一日中ベッドの上で一人でゴロゴロしていたいなぁ」

私がそういうとまた梨子さんは苦笑いを浮かべた。

梨子「それはあまり引きこもったことないからよ。たまになら良いけど何ヶ月もそれをやるとつまらないわよ。私が実証済み」

善子「さ・・さすが歴戦の不登校児。実感こもってる。」

梨子「それ褒められていいことなのかしら・・」

どうしようもなく、暗い話題に私たちは思わず笑ってしまった。




善子「言われてみるとリリーって私より色白いよね。実は口ではそう言いながらも結構今でも引きこもってるでしょ?」


梨子「ふふ、正解。日々の大半は家で過ごしています。出るのは午前中だけ。」

善子「ほらー。やっぱり。」


梨子「だからこんな肌も青白くて・・はぁ。もっと健康そうな肌になりたい。そういう施設で焼いてみようかしら・・」

梨子さんは自分の腕を少しだけ高くあげ色を見て、ため息をつきながら言う。



善子「えー!?リリーみたいな美白になりたい人ってすっごく多いんだよ!?焼いちゃったらもったいないよ!私だって羨ましいもん!!」

私がそう力説するとキョトンした顔に梨子さんはなり、

梨子「・・・羨ましいなんて初めて言われたから嬉しい」

すぐに私に今まで一番の笑顔を見せた。




それから少しだけ歩くと梨子さんは前方を指を指した。

梨子「あそこの家なのよ。どう?中々悪くないでしょう?」

指差す先には一軒家があった。




ただ、見た目のお嬢様然とした印象だったから凄いお金持ちなのかと思っていたが、

私と全然変わらない普通の造りの家だ。

善子「うん。すごくいいお家」

梨子「さ、ますます日差しも強くなってきたし、ヨハネちゃんの体が太陽で焼き尽くされないように中でくつろぎましょう。」

そう言って微笑む彼女に連れられていく私の足取りはなんだか少し軽くなったような気がした。
















ただいまーと言いながら梨子さんが玄関のドアを開け、中に入っていく。

私は少し離れたところから、本当に私も中へ入っていいのだろうかと躊躇してしまう。

こ・・これからお母さんなどのご家族の方ともしかしたら会うのかもしれないと思うと緊張で体が強張ってしまう。 



失礼のないように・・・

失礼のないようにしなくちゃ




ああっ もうっ!だから、やっぱり何か買って来るべきだったのよ。

そうしたらこんな変な緊張しなくて済んだのにい!



来る途中で、お母さんへ何か手土産を買うべきだと梨子さんに進言してみたが

別に恋人を紹介するわけじゃないんだから。そこまでしなくて大丈夫よ。

友達が遊びに来るだけなんだし、いらないわよ。よっちゃんって本当に面白い子ね。

と笑いながら断っていたが、

私にとっては、笑い事ではない。



友人の家に初めて遊びに行くという超G級のハードクエストなのだ。

ここで失敗してしまえば、2度目はきっとない。だから絶対に完璧にこなさなきゃならない。

そんなプレッシャーのせいで中々入ろうとしない私に梨子さんが手を差し伸べ、笑いながらいう。



梨子「別にうちはそんな怯える場所じゃないわよ。とって食べたりしないから大丈夫よ。ね」

その言葉に促され、私はおそるおそる桜内家の中に入って行く。

善子「お、お邪魔します。」



入ると同時にうまく言えないが、優しい香りというのだろうか。

ふんわりとした香りが、私の鼻の中を通り過ぎて行く。

自分の家とは全く違う。なんだかとても癒されるような落ち着く匂いだ。

この自分の家とは違う香りに私は本当に『友達の家』に来たんだという実感が湧いて来た。

そしてそれを自覚すると同時になんだか目頭が熱くなり、頬に涙が一滴伝い落ちていく。




梨子「えええ・・・・なんでよっちゃん泣いてるの」

そんな私に対して全く意味がわからないというような唖然とした表情をして問いかけて来た。

なんでって、そりゃあ

善子「だって私、友達の家に呼ばれたのなんて小学生の時以来なのよ!?嬉しいからに決まってるじゃない!あああこれが夢にまでみた友達の家に遊びにくるってことなのね!凄い凄いわ。まるで青春映画のようだわ!」

梨子「あ、ありがとう。よっちゃんが、そこまで喜んでくれるとは思わなかったわ・・」




梨子さんが何故か私の言葉に困惑しているところに梨子さんとよく似た雰囲気の女性が廊下の奥から歩いて来た。

梨子「あ、お母さん。この子がさっき、連絡したよっちゃん。 」

梨子さんは、そういってお母さんに私のことを紹介する。

善子「つ、津島善子です。本日はよろしくお願いします!」

当然のことに私はしどろもどろになりながら即座に深々とお母さんに頭をさげる。


「いらっしゃい。津島さん。ご丁寧にありがとう。どうぞゆっくりしていってね」

お母さんは私よりも深くお辞儀をしたあとにこりと微笑んだ。

あ、この笑顔。梨子さんと全く同じあの優しい笑顔だ。




しかし、梨子さんのお母さんは私から梨子さんへと顔を向け直すと不安そうな顔になった。

「ねぇ、梨子ちゃん、今日も海岸にいたの? あなたその・・大丈夫なの?」

梨子「うん。多分大丈夫。自分の事は自分が一番理解しているわ。まだ全然平気。だからお母さんはそんなに心配しないで」

そういって明るい笑顔を見せる梨子さんとは対照的に、

梨子さんのお母さんの表情はすぐれてはいないようだった。



それは多分学校を休み続けていることへの心配をしているようだった。

そりゃそうだ。 

親公認で休んでいると梨子さんは言ってはいたが、その事を不安に思わない親はやっぱりいないんだ。

「それなら、全然良いのだけれど・・。」

っていいのかい!

うーん・・よくわからない親子関係だ。




「だけどあなたは良くても、こんなお昼から津島さんはご迷惑じゃないかしら。もし梨子ちゃん迷惑かけしまってたら私に伝えてね」

善子「あ、いえ。その私も・・恥ずかしいんですけど不登校で時間があるのでこうやって梨子さんに誘ってもらって感謝してます。」

そういう私に梨子さんのお母さんはなんとも言えない顔になったあと再び梨子さんに向き直る。

「梨子ちゃん・・あなた 津島さんにどこまでお話ししたの?」

梨子「私が不登校で親公認で学校休んでるって事は言ったわ」

「そう・・・。わかったわ。」




梨子「ね、早く私の部屋に行きましょ。二階にあるのよ」

そういって階段を梨子さんは指を指す。私の手を引いた。

善子「うん。失礼します。」

そういって私は梨子さんの後をついていく。

「あとでお菓子とジュース持っていくわね。」

梨子「お母さんありがとう。」

善子「ありがとうございます。」

そういってお母さんに頭をさげるとまた優しい笑みを見せた。



私は梨子さんに連れられるまま階段を登っていくと後ろから微かな言葉が聞こえて来た

「梨子ちゃんと仲良くしてくれて本当にありがとう」

私は照れ臭さと恥ずかしさからその言葉を得意技である聞こえなかったフリをしてしまう。

やっぱり私は、なかなかうまくやることが出来なかった。














部屋に入ると、そこはなんていうか女の子の部屋だった。

入った瞬間に、ふわっと石鹸の香りが広がる。

ゴミ一つ落ちておらず清潔感がある。

花が飾ってあったり、ベッドの上には何かの動物のぬいぐるみがおいてあったり

机の上には花も飾られている。

ぽかんと呆気に取られている私に「どうぞ、使って」と梨子さんからクッションを渡され、

私は即座にそこに腰を下ろした。真向かいには梨子さんも腰を下ろして微笑みながら私を見ている。




・・・

やばい!

めっちゃヤバい!

なんか凄い良い臭いがするんだけど!何これなんでこんなにいい香りがするの!?

てか部屋に花ってなに?そんなのするの?

っていうかなんで物が散らかってないの!?

やばい やばい

一般的な女子高生の部屋やっっっべーーーー!!!





ちょっとテンション上がりすぎておかしいと思うかもしれないけどさ

だってしょうがないじゃん。

私の部屋はゲームハードやパソコン、コミックなどどちらかというと置いてるものか男の子寄りなうえに結構散らかしっぱなしにしていることが多いんだもん。

だから世間一般の女の子の部屋とはかけ離れているせいかあまりの差にカルチャーショックを受けちゃうのよ

そんな興味津々といった様子で部屋をキョロキョロ見回す私に梨子さんが苦笑いを浮かべていた。




梨子「・・さーて、私の部屋に来たことだし、ゆっくりガールズトークといきましょ。ね、よっちゃんのこと色々話を聞かせて」


ふふ

話をして・・ね。

良いわよ。このヨハネが話をして差し上げようじゃない!

・・



ってごめん!やっぱ無理!

コミュ障の人間にいきなりなんか面白い話をしてと言われても出来るわけがないわ!

善子「な、なにを話ししたらいいのかしら。昨日の晩御飯の話とかでもいいのかしら?」


梨子「・・・さすがに晩御飯の話はちょっと・・そうね、ごめんなさい。何かこちらから主題を出せば良かったわね。えーと・・それならよっちゃんの趣味ってなあに?」

善子「・・・趣味!?」

私の心臓の音が跳ね上がる。手に汗がじわりと湿り気を帯びる。




梨子「うん、趣味。どんなことして遊んでたり、好きなことってなにかなーって。そういうよっちゃんが大事にしてること好きなことをまず知りたいな」

・・好きなこと

・・・好きなことねえ

私の趣味は、ハッキリ言ってあまりおおっぴらに言えるものではない。




不登校なだけあって私の趣味といえるものはどうにもインドア系というかオタク臭いものばかりだ。

えがお動画という動画配信サイトでの生配信、戦闘系のゲーム(たまに乙女ゲーも) それに魔法

・・ってまたこういう思考になってる。危ない危ない

魔法なんていったらまたドン引きされるだろうし・・・

気づけてよかった・・っていうかそうよ!私には魔法があるじゃない。

厳密には魔法じゃないけど魔法っぽいアレが




善子「そうね。趣味って言えるほどのものじゃないけどタロットカードとか出来るわ。」

その言葉を聞くなり、梨子さんはへぇっと感嘆の声を漏らした。

よかった・・

この話題は正解だったらしい。 

そういや女の子で占い嫌いな子ってほとんどいないわよね。

梨子さんも多分に漏れず興味津々なキラキラとした目で、

梨子「タロットってすごく難しそうよね。いっぱい役みたいなのがあるじゃない?確か正位置とか逆位置とか、そういうのもよっちゃんわかるの。」




食いつき方が半端ない。

ぐいぐいと正面から詰め寄るように矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

善子「うん。別に難しいことなんて無いし、すごい簡単だもん。カードをめくって普通の向きだったら正位置で良い意味になって、逆向きだったら逆位置で悪い意味になる。ほんとにそれだけ。」

梨子「へぇーっ。知らなかったわ。」




善子「それにタロットって3枚めくってそれで占うイメージあるけど、ただ一枚だけめくって簡単に占う方法もあるから占いとしては凄く簡単な部類よ」

梨子「すごいすごい!面白いわ。よっちゃん凄いんだね」

はしゃぎながら、パチパチと拍手まじりにこう素直に褒められ、照れまじりにポリポリと頬を掻きながらも、

・・あ、なんだか凄く私おしゃべりができてるなと感じて嬉しくなる。




梨子「ね?よっちゃん、それで私のことも占うことも出来るかしら?」

尊敬の眼差しを向けながら、わくわくとした様子で私に尋ねる。

善子「勿論よ。なんなら今占ってあげるわ。」

梨子「ホント!?すっごい楽しみ!」

善子「ちょっと待ってて、タロットならいっつもこのカバンの中に・・・」



ん・・・?

あれ・・・?



善子「あれ、どこに行っちゃったんだろ」

私はカバンの中に入っているものを一つ一つ取り出す。




えーと黒マントでしょ

蝋燭でしょ

水晶でしょ

仮面でしょ

眼帯でしょ  

ぽいぽいとカバンの中から中身を取り出していくがどうにも見つからない。

あれ・・?なんで無いのよ!




絶対にあるはずなのにと、必死で鞄の中を探している私を横目に梨子さんが戸惑いながら

梨子「・・・よっちゃんまさかそれいつも持ち歩いてるの・・・?」

善子「もっちろんよ!というかこれ以上に必要なものなんてないじゃない!」

梨子「いや、教科書とか必要・・でしょ?」

善子「え、学校に行ってないのに持っていく必要ないじゃない。使わないもの持って行ってもしょうがないし」

梨子「使う使わないで言えばそのグッズの方が使用頻度としては少ないと思うのだけれど・・」

となんとも言えないような表情で呟いた。




その後を探し続けていると

私は昨日生配信で占いやっていたせいで机の上にタロットを置きっぱなしにしていた事を思い出した。

ああああ、なんで今日に限って忘れて来ちゃったのよ・・

いつもは必ず持って来てるのに・・・




善子「ごめん・・タロットカード家に忘れて来ちゃったみたい・・」

私は消沈した声で呟く。

私ってなんでいつもこうなんだろ

大事な時に限って、ついてないことばっかり起きる。

せっかく梨子さんに良いところを見せられると意気揚々としていただけに自分に対してがっかりしてしまい

はぁ・・とため息をつくと私の頭をぽんぽんと撫でられた。



梨子「全然大丈夫よ。気にしないで。ね、よっちゃんが今度また遊びに来た時にでもして貰えると嬉しいな」

善子「へ、今度?」

私は予想外の言葉に目を丸くして梨子さんの顔を見る。

梨子「うん。またここに遊びに来るときにタロットお願いしていい?」

善子「そ、そうよね。また、今度 また今度よね!うん、もちろん!大丈夫。絶対に今度は忘れずに持ってくるわ!」

梨子「ふふ、ありがとう」




にこにこと微笑んでいる梨子さんに今度は私が言葉を投げかける。

善子「ね、今度はリリーの事を教えてよ。私ばっか話すのは不公平よ」

梨子「ええ、もちろん。よっちゃんが聞きたいことなんでも大丈夫だからね」

その言葉に梨子さんは、嬉しそうに頷く。



善子「私もリリーの趣味を聞きたいわ」

梨子「趣味ね。良いわよ。私の趣味はピ・・」

善子「ピ?」

梨子「・・・・・」 

その瞬間、ハッとした表情をし、何故か梨子さんは珍しく言葉に詰まってしまった。




今でこそ、この時の梨子さんが口をつぐんだ理由は痛いほどにわかるけれど

この時の私にはその理由はまだ分からなかった。

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