츠시마 요시코의 부등교의 나날
津島善子の不登校の日々
https://www.pixiv.net/novel/series/839643
善子「ピ・・・?」
私は首を捻りながら、もう一度彼女に聞く。
梨子「ピ・・ピ・・ピクシブとか!そうよ。ピクシブよ」
言葉に詰まったあと、梨子さんは柏手をポンと叩きながら言う。
善子「ピクシブ?ピクシブってあのpixiv?」
予想外の単語に頭上にクエスチョンマークが浮かばせながらわたしが尋ねると梨子さんはこくこくと頷いた。
善子「え?絵書くの?リリー絵書けるの?それとも小説?」
梨子「絵画の方よ。自分で言うのもなんだけど結構うまいと思うわ。あと他の趣味には料理や手芸も好きよ。」
善子「あ・・そういう絵ね。私も絵書くわ。あと・・手芸と料理も私も一応できるわ・・」
梨子「ホント!?これってすごい偶然ね!」
うーん・・・同じ趣味か・・本当にそういっていいのだろうか・・・
・・一応嘘は言ってはいないし、本当の事だけれどリリーと私の差がありすぎると思う。
私のイラストはあくまでもアニメや漫画などのファンアートじみたものだし、
料理もするけどきっとリリーがするようなオシャレな料理とかじゃなくて日々のお惣菜みたいなやつ。
糸と針にも慣れてはいるがそれはコスプレ衣装を作るために身につけたものだ。
こんな私と一緒にしてしまったら梨子さんにさすがに失礼な気がする・・
そんな私の心と裏腹に梨子さんは嬉しそうにしながら
梨子「ね、見て見て。これが実際に私が書いた絵なの。」
そういって押入れから、額に入った何か恐ろしい化け物を描かれた絵を取ってきて私に手渡された。
梨子「どうかしら。」
私は彼女から渡された絵をじっと見つめる。
・・・これが梨子さんが書いた絵・・
色彩鮮やかな絵ではあるがお世辞にはとてもうまいとは言えない絵だ。
しかも描かれているものは梨子さんのイメージからは似合わない。
四足歩行の生き物が描かれている。
大きな胴体にギョロリとした目、ニタリとした不気味な口、顎からは蛸の触手のよう奇妙な物体がぶら下がっている。
宇宙生物のような化け物じみた印象を受ける。
善子「・・・何の絵なのこれ・・・」
梨子「見てわからないかしら?象よ。」
なんだと・・・
善子「これが象!?もしかしてこの顎の先についてる長い物体が鼻?なんで顎から鼻が生えてるの!?」
私が叫ぶように尋ねると、待ってましたとばかりに梨子さんはふふんと鼻を鳴らす。
梨子「写実主義ばかりが絵ではないわ。そのままを書き起こすのではなく、形を崩したとしても私の中にあるイメージを膨らませて絵にするから絵は面白いんじゃない。」
善子「言いたいことはわかるけど・・・」
梨子さんは、こういう独特な絵ばかりをpixivに投稿しているのだろうか。
正直pixivではこういう絵は中々受け入れ難いのではないかと思う。
色使いは凄いうまいだけに一概に下手とも言えないのがなんとも言えない気分にさせられる。
善子「・・・リリーもし良かったらアカウント見せてもらえる・・?」
梨子「ええ。良いわよ」
彼女からスマホを手渡されると私はその画面を見つめる。
・・・想定通りのことが起きていた。
彼女の投稿した絵のサムネ全てがなんというか、全てこのような絵柄だった。
善子「リリー・・この絵ちょっと見ていい?」
梨子さんの顔を伺いながら尋ねると梨子さんは自信満々に頷く。
梨子「ええ、もちろん」
許可を得て、太宰治と名付けられた人物画を開くと
太宰治とは似ても似つかない不気味なおっさんがにたりと笑っている絵が画面いっぱいに表示された。
・・ファンが見たらこのページ炎上するんじゃないだろうか・・
それに・・・
フォロワー0 マイピク0
私が何を言いたいのか察したのか梨子さんは遠い目をしながら自嘲的に呟く。
梨子「芸術は中々理解されないのが悲しいところね」
うーん・・ちょっと前衛的すぎて私もなかなか理解できない・・
けれど、
私も自分のスマホを取り出すと、数秒ほど操作をしたあと梨子さんにスマホを返し、
善子「画面更新してみて」
私にそういわれて梨子さんが画面を更新すると
彼女のポップボードを表すウサギのアイコンに赤い色で1という数字が現れた。
梨子さんは「え。」と声を漏らし、そこを開いて見てと更に私は言うと彼女は操作を続ける。
開かれた画面には
漆黒のヨハネさんがあなたをフォローしました。
と彼女のスマホに現れた。
善子「あとでマイピク申請も送るわ」
誰にも見てもらえないというのはやはり寂しい。
少なくとも0よりは1の方がいいはずだ。
でも、やはりこういうことはやったことがないので照れ隠しにぷいっとそっぽ向くと
梨子「よ、よっちゃん。」
梨子さんにぎゅーっと抱きしめられた。
梨子「わたし、すっごく嬉しい!」
梨子さんの細い躰。あばらや鎖骨が私の体にぶつかる。
服越しでも感じる梨子さんの優しい暖かさだ。
梨子「ここ最近・・ううん、高校に入ってから一番嬉しい!!!!!こんなに嬉しいの本当に久しぶり!大好き!」
そういって涙をにじませる彼女の顔は今日見た中で一番の笑顔だった。
ここまで喜んでもらえると私もとても幸せな気分になる。
だけど・・
善子「い・・息が出来・・できない」
梨子さんに抱きしめられてうまく呼吸が出来ない。
ジタバタと逃げ出そうとするが、そうすると更に強く抱きしめられて逃げ出せない。
梨子さんの力自体はそれほど強くはないはずなのになぜか抜け出せない。
ぐえええ
だんだんと体全体に力が入らなくなっていかだらんと私の手が落ちる。
そして私が白眼を向いて意識が消えそうになって梨子さんがハッと私の体から手を離した。
梨子「あ・・・やりすぎた・・・」
私の意識がこの現世へと帰還を果たすと梨子さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
梨子「よっちゃん大丈夫?ごめんね。つい嬉しくなっちゃって」
そういって両手を合わせて私に謝罪をしている。
善子「ふ、私を誰だと思っているの。全然平気よ。」
私は何でもないといったように大丈夫だと手のひらを前に出すと梨子さんが、ほっ・・と安堵の息を漏らした。
善子「それに良かったこともあったのよ。本当に惜しかったわ。」
梨子「どうしたの?」
善子「私、真理の扉の前にまで行けたのよ!もう少しでこの世の理の全てを掴めたのに」
そういって、悔しさからグッと拳を握って残念がる。
梨子「・・・やっぱりまだダメそうね・・・」
その後、お菓子を梨子さんのお母さんが用意してくれた。
お盆には二つのケーキとコーヒーが入ったコーヒーが乗せられていた。
まさかケーキとコーヒーが出てくるとは・・・
しかも載せられているケーキはチョコレートケーキとイチゴケーキ。
どっちも私の大好物だ。
私は予想以上のお菓子に感動してしまう。
うちで出てくるお菓子なんて煎餅と緑茶なんていう田舎者丸出しのお菓子だというのに
たまに出してくるフルーツといったら私の大嫌いなみかんくらいなもの。
よっちゃんが好きな方を選んでと言われて、かなり悩んだ末にチョコレートケーキにした。
チョコレートケーキをフォークで少しだけ切り取り口の中に入れる。
・・・ものすごくおいしい。
私は勢いに任せて口いっぱいにチョコレートケーキを頬張る。
やっぱり東京に住んでいた家庭ってのは洒落てるなぁと思う。
私もいつかはここを抜け出して東京に行って洗練されたセンスの持ち主になりたいと思う。
私が梨子さんのお母さんは優しくて綺麗でいいなぁというと
梨子「お煎餅も美味しいじゃない。静岡はお茶が美味しいし、お煎餅とよく合って私は大好きよ。」
梨子「みかんだってここで作られている本当に美味しいものをよっちゃん出してあげたいと思ってお母さん出してるのよ。とても優しい人だと思うわ」
善子「えー・・・絶対あの人はそんなこと考えてないわよ。それに私は毎日こういうチョコレートケーキ食べたいわ」
そういって不満を垂れ流すと梨子さんは苦笑いを浮かべる。
梨子「それに東京だっていいとこばかりじゃないわ。ここは空気が本当に澄んでるし、野菜やお魚も新鮮だし、なにより周りの人が優しくてあったかいじゃない」
善子「それ田舎の良いところで聞くことばっか。私はそんなことよりもやっぱり都会に行きたいわよ。ネットを使わないでも何でも揃うじゃない」
梨子「確かにお店だけは色々とあるわね。ここだと本を手に入れるのだけは苦労しちゃうかな」
とちょっとだけ困り顔になった。
善子「ほら、やっぱり」
ふふーんと私は腕を組んでドヤ顔になる。そんな私を見て梨子さんは微笑みを浮かべながら
梨子「でもね」
と言葉を続けた。
梨子「それ以上に良いこともあるのよ。私はもう見つけちゃった。よっちゃんはまだ気づけていないだけで」
善子「えー、あるのかなぁ。」
梨子「ええ、本当に素晴らしいところよ。ここは。」
お菓子を食べ終わると私達は満腹感からだらりと体勢を崩した。
梨子さんは先ほどから何度も嬉しそうにスマホを見つめている。
私もスマホとそんな梨子さんの顔を交互に見つめながら思う。
梨子さんの趣味が絵だったとはねぇ
私も自分で版権もののイラストは書くけれど、どちらかというと書くよりも見る方が私は好きだ。
カッコいい絵があるとついついお気に入りにしてしまい、ブックマークがとてつもない数になっている。
そういやリリーも書くだけじゃなくて絵を見たりもするのだろうか。
私は気になって再び、pixivを開きリリーのページを見ると
リリーが投稿している絵の下にリリーがブックマークしている絵がサムネイルで表示されていた。
善子「あれ・・リリー、ブックマーク公開してるの?リリーがどんな絵好きなのか見ていい?」
梨子「・・・・・・」
私がそういうと梨子さんは頭上に?が浮かんだようなきょとんとした顔で首を傾げている。
善子「ほら、他のユーザーでもリリーがお気に入りにしてる画像誰でも見れるようになってるじゃない。公開してるなら見てもいいのかなって」
私がそういうと梨子さんの顔がピキピキと引きつりだして数秒硬直し.
梨子「人が見れるのを、す・・すっかり忘れてた!よっちゃん。だ・・・ダメええええ!絶対に見たらダメえええええ!!」
梨子さんは額に脂汗をにじませながら私の肩をがっつりと掴んできた。
さっき抱きしめられた時よりも数段強い力だ。
何か地雷を踏んだらしい。
・・・ヤバい
善子「わ、分かったわ。ぜったいに見ない!約束するわ・・だから・・お、落ち着いて」
私はあまりの迫力に必死にこくこくと頷くが、
梨子さんはあまりにも動揺していて私の声が届いていないようだった。
梨子「どどどどどど、どうすればいいのかしらどうすれば・・・」
完全に瞳孔が開いて目がイッてしまっている。
ここまで動揺するとは、よっぽど見られたくないものがお気に入りにしてあるらしい。
物凄い形相で私の肩をガクガクとさせている。
あががががが。
またこのパターンか!
私の胃の中のケーキが揺れ、部屋の景色が高速移動を始めている・・・
頭を揺れて、意識が朦朧としてくる。
また私はどこかの世界に飛ばされそうになりながらも必死で言葉を紡ぎ出す。
善子「り・・リリー・・おおおお落ちつつ着いて ひひひ非公開ににに出来るからららら」
梨子「ほ、ほんと!?出来るの!?」
私の体を揺すり続けていた梨子さんの手がようやく止まった。
た・・・助かった。
ぐったりとなりながら私はなんとかスマホを操作して彼女に画面を見せながらイラストの公開と非公開を切り替えると
ようやく梨子さんは落ち着きを取り戻した。
そしてすぐに自分がしてしまった事を認識して顔が青ざめている。
梨子「ご、ごめんなさい!よっちゃん。また私よっちゃんに大変な事を・・」
深々と頭をさげる梨子さんに私は彼女を気遣って親指をぐっと立て平気だというそぶりを見せる。
善子「だ・・大丈夫。2回目だから全然問題無し。それに見られたくないものが見られそうになったら私だってきっとリリーとおんなじ風になっちゃうから」
そういうと彼女は安堵した顔になる。
善子「それに私もこれからすっごく失礼な事すると思うからおあいこ」
梨子「失礼なこと・・・?」
・・・・我慢してきたがもう耐えられない。
・・・
ぷっ、と息を吹き出すと同時に
善子「あはは・・・あはははははは。リリーさっきものすっごい顔してたわよ!」
と堰を切ったようたように笑い声が口からあふれ出した。
梨子「も、もうっ。ひどい!笑わないでよ」
私がそういうと梨子さんの白く美しい顔がみるみるうちに朱色が混ざっていく。
善子「だっておかしいじゃない あんなに慌てちゃって。あんなの笑わない方が無理だって!」
お腹を押さえて爆笑している私に梨子さんは詰め寄って弁明し始める。
梨子「私にとっては笑い事じゃないの!すっごくすっごく慌てたんだから。」
善子「あははは。リリーも慌てることがあるんだ!」
梨子「私をなんだと思ってたのよ!私だって普通の人間なんだから!」
そういってぷりぷり怒っていた梨子さんも時間が経つにつれて
何か吹っ切れた様子でくすくすと笑いだし始め、私たちは部屋で大声で笑いあった。
そのあとも私たちは部屋で話を続けた。
どんな事が好きなのか。
沼津の話や、梨子さんがいたという東京の話
喋っても喋り足りないくらい話をした。
下校時間になり、そろそろおいとまする事を梨子さんに伝え、
梨子さんのお母さんにも帰ることを伝えると2人とも玄関まで見送りについてきてくれた。
私は靴を履くと2人に頭をさげ、玄関ドアを開けた瞬間、梨子さんから声がかけられた。
梨子「きっと明日も私はあそこの海岸にいるから」
私は、ただ黙って梨子さんに頷き、桜内家をあとにした。
家に帰ると母は台所で夕飯を作っている最中だった。
おかえりなさいと母はいうが
その顔は料理を作るためにまな板にむけられており、
私に対しては背を向けたままだ。
私もしれっとした声でただいまという。
そして今日の夕飯はなにー?と少しだけ明るい声で母の元へ近寄っていく。
一般家庭のどこにでもある風景だ。
どこにでもある母と高校生の娘の姿だ。
ただ一つ普通の家庭と違うとしたら、私の内心は学校を休んだことがバレていないかと冷や汗を垂らすほどに不安でいっぱいという事だろう。
私と母は不仲というわけでは無い。
むしろよく話もするし、側から見れば仲良し親子といっても差し支えない。
しかし、母は学校の事に関してだけは私には何も聞いてこない。
もちろん、私の中学時代の事を何もかも母は知っている。
私がやらかした黒歴史も、人付き合いが苦手な事も、見栄っ張りな事も何もかもだ。
だからこそ母は私が高校生活をちゃんと送れているかどうかを気にならないのだろうか
何故私に「学校は楽しい?」と聞いてこないのだろうか。
これは母なりの優しさなのだろうか、
それとも私は母に見放されてしまっているのだろうか
人と交流するのが苦手な私は家族の気持ちも読み取る事は出来なくなってしまっていた。
夕飯を食べ終わると母にごちそうさまと言い、自分の分の食器をキッチンへと運び、食器用洗剤をスポンジに少量つけ、泡立てる。
泡で皿の汚れを落とし、流水で全て洗い流されていく。
洗い物は結構好きだ。
こうして汚れを落とす事だけにただひたすら夢中になっていると
なにも他に考えなくて良いから気が楽になる。
そして汚れが洗い流されていくのを見ると私の不安な気持ちも洗い流してくれるようなそんな気持ちにもなれた。
皿を洗い終えると私はすぐに自分の部屋へと向かう。
チラりと母の方を見るが、その事に対して母はやはりなにも言わない。
部屋に入るなり私はふぅと息をつき、すぐにベッドに倒れこむ。
ようやくなんだか落ち着けた気がする。
ベッドに寝転がりながら机の上を見るとタロットカードが置いてあった。
・・・やっぱりここに置いてあったか。
無くしたわけじゃない事に私はひとまずホッとするとなんだか酷い眠気が襲ってきた。
今日は凄く色んなことがあったせいだろう。
疲労感がいつもと比べて半端ない。
あー・・・今日はあのアニメあるから起きてないと・・いけないのに
目をゴシゴシと擦るが瞼が重い。
・・いいや。どうしようもなく眠い。
録画で我慢する事にしよう。
私は毛布を一枚体に上にかけ、そのまま目を閉じると梨子さんの声が耳に再生された。
『きっと明日も私はあの海岸にいるから』
分かったわよ ・・リリー・・またあ し た ・・・ね・・
そうして私の意識は深い眠りの中に落ちていった。
明日を迎えるのを不安ではなく、楽しみを抱いて眠りにつくのはいつ以来の事だろう。
今日の私はいつもより少しだけ早く家を出た。
私の肩にいつもより少しだけいつもより多く荷物の入った鞄を持って歩いて行く。
沼津駅に向かう途中にあるコンビニに寄り、こっそりとトイレへと入ると
個室の中で、私は制服から鞄の中に詰め込んでいた「私服」を取り出し着替え始めるが
せまっ・・・
トイレの中で着替えるなんて初めてだけどこれ予想以上に難しいわね・・
服を床に落とさないように気をつけないと。
手間取りながらもなんとか着替え終わると私は更に鞄の中からメガネを取り出し、
もちろん、知り合いにあってもバレないように月並みではあるがマスクとメガネをしている。
別に芸能人ってわけじゃないんだし変装はこれくらいで平気だろう。
洗面台にある鏡で自分の姿を確認する。
・・・よし・・大丈夫。これなら絶対にバレないわね。
沼津駅から乗ったバスには、浦の星女学院の制服を着た生徒の姿が何人かは確認できる。
だけれど私に誰も気づいていないようで誰1人としてこっちを向く人はいない
変装はとりあえず成功のようだ。
しっかしまぁ、あんな潰れそうな学校にわざわざ沼津から内浦まで通うなんてもの好きな人よね
・・まぁ私が言えたことじゃないけど。
海岸には既に青色のシートひいて梨子さんが腰を下ろしている。
梨子さんはブラウスシャツに桃色の花柄スカートを着ている。
年齢が一つしか違わないのに本当になんだか凄く大人っぽく見える。
梨子さんは別に何をするわけでもなく昨日と同じくただ海を見つめている。
しかし、その眼差しはおそろしく真剣で、私は話しかけるのに躊躇してしまう。
1人でいるときの梨子さんは私と話すときの柔らかい印象とは違い、
話しかけることすら躊躇うようなそんな雰囲気を醸し出す。
私は少し離れたところでそんな梨子さんの姿を見ながら立ち尽くすが、私は拳をぎゅっと握り気合いを入れ、
善子「お、おはようリリー!」
と梨子さんに話しかけた。
梨子さんは私の声に後ろを振り向くと
梨子「おはよう、よっちゃん。良かった、来てくれたのね。待ってたわ。」
といつものあの満面のスマイルを私に見せてくれた。
私もその表情で安堵して梨子さんの隣に腰を下ろした。
だけれど、私が隣に座ってからというもの梨子さんは
何か信じられないものを見たというような驚愕の表情で何度か私の方をチラチラ見ている。
何か口を開いては喋ろうとするがやっぱり口を閉じて喋るのをためらっている。
何かあったのだろうか
善子「リリー ?さっきからどうしたの?なんか変よ?」
私は不思議に思い梨子さんに尋ねる。
梨子「あ、あのねよっちゃん・・・・・えーと・・なんて言ったらいいのかわからないけれど・・その・・とても『可愛い』お洋服ね。」
梨子さんがそういって私の服を見つめる。
そこで私は納得がいき、ぽんと手を叩いた。
なるほどね
梨子さんは、この服の事が気になっていたってことね
確かに昨日の私は制服姿だったから、この私服姿は新鮮だったのかもしれないわ。
善子「あ、この服?ほらさぁ。昨日私制服で目立ってたじゃない?今日はリリーと会うからお気に入りの私服で来たわ!」
私はそういって立ち上がると胸をドンと叩いて自分の姿を梨子さんに見せつける。
今の私の格好は
小さく左頬にハートのフェイスペイントを入れ、
真っ黒なゴシックタイプのドレスに
髑髏の絵があしらっているパンプスを履き
頭には大きなリボンがあしらわれた黒のミニハット
髪は右頭頂部近くお団子にまとめたシニヨンヘアにしてあり、そこに黒羽のヘアアクセを突き刺している。
自分で言うのもなんだけどかなりお洒落で可愛いとおもう。
私は自信満々にふふん、と鼻をならすが何故か梨子さんの表情はあまり浮かない。
梨子「・・・・もしかしてそれでバスに乗って来たの?」
善子「当然よ。」
梨子「ねえ・・逆に目立たなかった・・・?」
善子「いえ、今日は昨日と違ってむしろ誰1人として視線が合わなかったわよ?完全に社会に溶け込んでいたわよ。」
梨子「そ、そう・・・」
楽しげに語る私と対照的に梨子さんはどんどん顔を強張らせている。
そんな微妙なリアクションばかりの梨子さんに私はなんだか不安になってきた。
善子「変・・かな?」
そういうと梨子さんは慌てたように両手をブンブンと振る。
梨子「あ、違うのよ。その服よっちゃんに本当によく似合っているとおもうわ。ただ、そうね・・私服で着るにはもう少し大人しめの服装でもいいかも。」
大人しめの服装?
梨子さんの言葉に私は自分の服を見つめたあと梨子さんの服装を見比べる。
・・確かに私の服装は煌びやかだったかもしれない・・
新しく出来た友達に、見て欲しいという気持ちが強すぎて周りが見えていなかった事に今更ながら気づいた。
善子「・・派手だったかなぁ・・・」
梨子「・・少しね」
そういって梨子さんは少し苦笑いを浮かべた。
梨子「でも、そのお団子に刺さってるヘアアクセはすっごく可愛いわよ。よっちゃんに似合ってて私はとっても好き。」
善子「あ、これ?」
私はお団子状にまとめた髪からヘアアクセを引っこ抜いて梨子さんに手渡す。
梨子「黒羽ね。かわいい、すっごいふわふわしてる。」
善子「でしょ!でしょ!これを見つけたときにビビっときたわ!」
さっきと違い、今回は純粋に梨子さんに褒められて嬉しくなり、はしゃぎながら答える。
梨子「ね、どこで買ったの? 私も欲しいな」
そういって私に尋ねる梨子さんに待ってましたとばかりに答える。
善子「ふふん、これ買ったものじゃないのよ」
梨子「へ?」
善子「ちょっと前に散歩してたらカラスの羽が落ちてたから拾ったのよ。髪飾りになるかなーってどう似合う?」
梨子「つまりこれ本物ってこと・・・・・?」
梨子さんの手がぷるぷると震え始める。
ふふふ、驚いている。やっぱり天然物というインパクトは大きいみたい。
梨子「当然よ。偽物なんて私にはふさわしくないからね!」
私が胸をドンと叩いて自信満々に言うと梨子さんの手からぽとっと黒羽のヘアアクセがブルーシートの上に落ちた。
善子「もうっ。リリー、落としてる!」
私は慌ててアクセを拾い直そうとすると梨子さんが慌てて私の肩を掴み、拾うのをやめさせようとしてきた。
善子「な、なに?」
梨子「よ、よっちゃん!!ダメ!いくらなんでもそんなの拾っちゃダメ!病気になるわよ」
善子「大丈夫よ。ちゃんと煮沸消毒もしたし、薬剤にもつけたから」
梨子「そ、そういう問題じゃなくて・・普通はそういう事をしないっていうか・・」
普通と梨子さんが口にした瞬間、私の体が硬直してしまう。
私が1番苦手で、嫌いな言葉。
この言葉になりたくて、私はずっと努力してきた。
でも、私がやることなす事全てが普通ではないらしい。
どうやったって何かしらズレてしまう。
善子「ねえ、リリー・・私って世間とズレてるのかしら・・普通じゃないのかな・・」
私は涙ぐみながら梨子さんに呟く。
善子「・・・私普通の人がどういう服を着たり、どういうアクセつけたり、どういうお化粧するのかわからないんだもん」
この年頃になるときっと普通の人達は校則で禁止されたりしても学校に化粧道具を持って着て見たり、休日にはファッション談義をしたりして
少しずつファッション学んでいき、少女から女性への変化を歩んでいくのだ。
でも私にはそんな事を話し合える人はいなかった。
自分1人で、調べるしかなかった。
ネットだけが私の知識を得る場所だった。
私がそういうと梨子さんは黙り込んでしまい、沈黙が数秒間続いたあと梨子さんが私のことをぎゅっと抱きしめた。
善子「え、」
私は驚いて、変な声が漏れてしまう。
それでも梨子さんは私を抱きしめたまま、話しかける。
梨子「よっちゃん今度一緒に洋服買いに行きましょう。」
善子「いいの?」
梨子「ええ、服装だけじゃなくて私のうちでお化粧の勉強してみたり、アクセサリーの話でもいいわ。よっちゃんが今まで1人でできなかったこと一緒にやりましょう」
そう言って私の体から手を離すと私の目をしっかりと見て
梨子「あなたは他の人と何も変わらない普通な人で、私にとっては大事なお友達なんだから」
と言い、
でも、やっぱり地面に落ちた鳥の羽は頭に刺すのはいくらなんでもないわよとクスりと笑った。
梨子「さて、それではよっちゃんがしたいこと私に教えて。どんどんそれをやっていきましょう!」
梨子さんは興味津々といったような輝いた瞳で私に向き合う。
しかし、私はその梨子さんの言葉に咄嗟に返事を返すことができない。少しの間黙り込んでしまう。
答えが思い浮かばないわけじゃあない。
私が友達としたいことはいくらでもある。
それこそ毎日のようにいつも友達がいたら、こんなことができるのになぁと想像していんだから。
でも、その願いを口にしてしまうのはなかなか憚られた。
こんな事を梨子さんに言って呆れられないだろうか・・・
善子「あ、あのね。くだらないことかもしれないんだけどいい?」
ともごもごと口ごもってしまうが、
梨子さんは私にゆっくりと頷いて大丈夫よと微笑む。
それを見て、私は意を決して今まで自分の中に隠していた思いをぶちまけた。
善子「そ、それなら学校帰りに喫茶店にいってケーキやコーヒーを飲みたい!こう、女子高生って感じがするじゃない!?あーいう青春っぽいことがやりたいわ!」
梨子「・・これはまた難易度高いのを出して来たわね・・・学校帰り・・・ね。できなくはないけど・・よっちゃん学校いける・・?」
さすがにこの答えは予想外だったのか、梨子さんがこれはどうしたもんかと軽く額を押さえていう。
善子「うん・・今自分で言ったあと絶対に無理だなって思った・・」
そういってお互いに顔を見合わせながら苦笑してしまう。
不登校児が学校に行けるようになる
それが出来たんならきっと今の私の悩みのほとんどが解決してしまうくらいのことだ。
まぁ、でもこれが私にとって本当にしたい事なんだ。
梨子さんは私の夢を聞いあとで、顎に手を当て、少し考えた様子の後
梨子「でも、それいいかもね。うん、それを最終目標にしましょう。なんでも一緒にやるっていったし女に二言はないわ。」
と柏手をぽんと打った
え?マジですか。
いやいやいや無理なんだけど
私は首をぶんぶんぶんと横に振ると梨子さんがあははと笑い出す。
梨子「別に今すぐってわけじゃないわ。もっと手軽な事から始めていって最後には学校に行って校門で待ち合わせして2人でお茶をする。それが私達の夢よ」
なるほど。
そういうことか
確かに今の私達のゴールポイントを決めるのはいいことかもしれない。
いつまでもダラダラとここで逃げ続けるのも良くはない。
ここで逃げ続けていても待っているのは破滅だけだ。それならいつかってだけでも目標を立てるのはいいことだと思う。
それに梨子さんとクラスや学年違えども、梨子さんが一緒に学校に行ってくれるのならば、そのうち決心がつくような気もしなくもない。
善子「普通の女子高生からしたらきっとくだらない夢かもね・・」
梨子「良いのよ。私たちはその普通を当たり前に出来るようにするのが目標なんだから」
普通の事を普通に出来るようになる・・ね。
いつかそうなれたら本当に素晴らしい事だと思う。
もし、そうなれたなら私と梨子さんはどんな感じの高校生活を送るんだろうか。
梨子さんと私の理想の未来を思い浮かべてみる。
放課後、校門で梨子さんが腕時計を見ながら、私が来るのを待っている。
私と梨子さんは色んな部活に体験入部はして見たけれどやっぱり性格は中々変えられずあまりうまくはいかなかった。
だから結局お互いに帰宅部でいっつも時間があり、
今日も一緒に帰ろうと待ち合わせをしていた。
ため息をついてむくれている梨子さんのもとへ私が息を切らせながら走って来て、梨子さんに頭を下げるんだ。
今日も生配信やってて、学校遅刻しちゃってこのままだと留年だと先生に叱られたと泣きついて
最初は怒っていた梨子さんもあまりにも無残な私の醜態を見て、怒りもどこかに消え去って私の事を優しく慰めてくれる。
そんな風な毎日だろうか。うん、とっても幸せな光景だ。
あ、でも梨子さんって一つ学年が年上だから私より最初に卒業しちゃうんだよね
その時ってどうなるんだろ。
きっと卒業式の日、私は東京の大学に進路が決まっている梨子さんにおめでとうと言うのだろうけどすぐにぽろぽろと涙が溢れて来て
卒業しちゃやだあああ、東京に行かないで言うんだろうな。
また、ひとりぼっちになっちゃう。私を一人にしないで、そんなのやだ、と
そんな私を見て梨子さんはたまに遊びに来るからと言ってくれるんだろうけど
私はずっと泣きながらやだやだやだと号泣して梨子さんを困らせる気がする。
あ、なんか凄い悲しくなって来た。なんで梨子さん私より最初に卒業しちゃうの。
う、うううううう
やだやだやだやだやだやだやだ
善子「リリー!私を置いて卒業しちゃいやああああ。東京に帰らないでえええええ」
梨子「・・・あなたは一体何を言っているの・・?」
梨子さんが笑顔を引きつらせながら当惑した声を出している。
善子「いや・・なんか想像してたら感極まっちゃって・・」
梨子「いったい何を想像したのかしら・・」
まぁ色々と・・・
そうよ。
想像して見たら梨子さんは私より少し早く卒業してしまうんじゃない。
私だって梨子さんに助けられるだけじゃなく、梨子さんの役に立ちたい。
たくさん梨子さんと思い出を作っていきたいんだ。
だから!
善子「ね!私の事だけじゃなくて、リリーは何かやりたい事ない!?」
梨子「んー?私はここで海岸見て、よっちゃんとお話できるだけで満足よ。私はもうやりたいことなんて特にないもの。」
なんだか、少し自嘲気味というか諦めたような笑みを浮かべて私に答える。
寂しげともとれる表情だ。
善子「そんなぁ。私だって梨子さんに何かしてあげたいのよ!何かあるでしょ。やりたいこと。なんでも良いから思い浮かべてよ。」
私の強引なお願いに梨子さんは苦笑いを浮かべる。
梨子「本当に無いのよ。したいことはもうやり尽くしちゃったから。あ、あるとしたらよっちゃんと何かしたいってことかな。」
しれっと梨子さんは恥ずかしい事を言って来る。
私の頬の熱量が強くなってくる。こんな恥ずかしい事を言われたらドキドキしてくるじゃない!
善子「そ、そういうことじゃなくて、もっと真剣に考えて!」
そういって、ぷんぷんと怒る私を見て梨子さんは得意げそうににんまりと意地の悪い笑みを浮かべた。
それから直ぐに、梨子さんは真剣な顔になり、私に対して本気で答えを探し始めた。
梨子さんが「そうねぇ・・・・」
と何かを思い返すように言い、複雑そうな顔になった。
梨子「そうね・・したいことってわけではないけれど海の音は聞いて見たいかもしれないわね。」
善子「海の音?」
意味がよくわからず、もう一度梨子さんに問い返ししてみる。
梨子「ええ。海の音よ」
梨子「ね?よっちゃんは海の音って聞いたことある?」
梨子さんはまっすぐに私に視線を合わせる。その表情は真剣そのものだ。
善子「そりゃあるわよ。今だってほら、あそこで波がザブザブ言ってるじゃない。」
私は波打ち際を指差しながらいうが梨子さんはやんわりと首を横に振る。
梨子「違うわ。あれは私が思うには波の音。聞きたいのは海の音なの。」
善子「・・・違いがよくわからないんだけど」
梨子「そう言われると困るのよね・・ただ単に私が違うと思っちゃうのよね。」
善子「何よそれ。」
梨子「私もよくわかんないんだ。ただ、ここに来ればもしかしたら聞こえそうで毎日きてるの」
と笑った。
梨子「海の中なら聞こえるのかしら。」
と言い、何やら少し考えた後、私の両手をぎゅっと握った。
梨子「ね?それなら一緒に潜ってみましょうよ。ダイビング!」
善子「はい?」
いきなりとんでもない事を言い出した。
前から思っていたけれどこの人大人しそうな顔をして割と大胆な事を言ってくる。
梨子「ダイビングよ ダイビング。海の音ずっと聞いてみたかったのよねー。そうよね。海に潜れば良いのよね。それが私のやりたいことかも!」
そういって嬉しそうに笑う梨子さんに対して私は申し訳ないといったように答える。
善子「ごめん・・リリー ・・それはちょっと無理。ダイビングするにはオープンウォーターダイバーの資格持ってないと潜ることはできないわ」
梨子「あら・・・?でもテレビか何かで資格が無くても潜れるって聞いたけれど」
善子「インストラクター付きの体験コースならね。でも高校生には手が出ない金額。安いところでも一万円くらいするし」
梨子「あら・・随分高いわね」
善子「そうよ。凄く高いの」
梨子「意外とよっちゃんダイビングにも詳しいのね」
善子「さすがに沼津で育った身としては、一度くらい潜ってみたいと思ったことはあるからね。こんなに綺麗な海だし」
梨子「そうよね。とっても綺麗な海だものね」
そういって梨子さんは私から視線を外し、海へと視線を合わせる。
善子「願い叶えられなくてごめんね」
梨子「良いのよ。大した望みじゃないから、よっちゃんは気にしないで。それにお母さんにお金貸してと頼んでも絶対に反対されるだろうし」
善子「うちもあんたみたいにそそっかしい子にダイビングはさせられないと絶対に言われるわ。」
とため息をつく。
善子「高校生って色々なんでも出来そうで全然できないことばかり。小さい時はこの歳になったらなんでも出来そうな気がしてたのに、いざなると現実が見えてきちゃう。」
梨子「でも、出来ないことっていうのも今の子供のうちにしか体験できないものよ。こういう気持ちになれるのもとっても素敵なことよ」
善子「そうなのかなぁ」
梨子「ええ、そうよ」
梨子さんはそういって笑うが私にはやっぱり不自由なことばかりよりも
自由に出来た方が良いと思った。
出来ないことよりも出来たほうが絶対に楽しいはずなんだから
桜内梨子の不登校の日々
私は美術室で、絵を描く。
ここは、この中学校で私が2番目に好きな場所なの。
油絵の具の匂い
テレピン油の匂い
木の椅子と机の匂い
誰一人として声を出さず
筆やペンの音だけが鳴り響く
そんな場所。
私はとても地味な性格で人とお話をするのもあまり得意ではないから
ただ、ひたすら絵に向かって集中できるここは私にとってとても癒してくれるところなの。
私の通っているこの中学校では、生徒は必ず部活動に参加しなくてはならないため、
私こと桜内梨子はこの美術部に所属しています。
もちろん、静かな場所だから美術部を選んだわけではないの。
絵を描くのは本当に好き。
私の眼に映る全てを写真のように、精巧に、描くのはとても面白い。
「趣味」としては、絵画は1番好きとすら言えちゃうかもしれないほどに。
でも、私はある理由からあまり美術部の活動には参加できていない。
今日は本当に久々に部活動に参加しているけれどほとんど幽霊部員状態になっているんです。
ガラっと美術室のドアが開けられると美術室にいる部員全体が、その人へと視線が向けられ、挨拶を交わすとすぐにみんな視線はキャンバスへと戻っていく。
私も他の人達と同じように視線を戻そうとした瞬間、その人から声をかけられた。
「桜内さん。今先生が呼んでいたわよ。進路指導室に来くれだってさ。」
梨子「あ、はい。ありがとうございます。今行きます。」
私は報告をしてくれた子にぺこりと頭を下げると、
急いで筆を手からおろし、片付けを始める。
急いで行かないと。
呼ばれた理由はわかっている。
クラスで一人だけ私はまだ進路調査票を出せていないからだ。
私は大慌てで、片付けをしていると
微笑みを浮かべながら美術部の部長が私の元へとやってきた。
「大変ね。何か進路指導室に呼び出されるようなことあったの?」
と笑いながら、画材を一緒に片付けてくれる。
梨子「あ、ありがとうございます。その・・まだ・・多分進路調査票を出せていなかったので・・・呼び出されてしまったのかと・・」
私は自分の失態の恥ずかしさで顔が茹で上がりそうになりながら部長へと返事を返す。
「桜内さんは仕方ないわよ。迷うのも当然だわ。でも私からするとすごく勿体無いわ」
梨子「も、もったいない?」
「そうよ。すごく勿体無いわ。」
そういってから部長は私の絵をじーっと見つめる。
全然部活に参加できていないからとっても下手な絵を見られていることに少しバツの悪さを感じてしまう。
うう・・恥ずかしい。
「この絵だって本当に上手なんだもの・・・とても初心者とは思えないわ。桜内さん あっち辞めて本格的に美術部で活動しない?あなた絵の才能あるわよ。」
梨子「あ、ありがとうございます!お世辞でも凄く嬉しいです!でも、部長やみなさんと比べたら下手で本当に恥ずかしいです・・。こんな全然部活に参加できていないのに絵の才能だなんて・・・」
私は俯きながらそう答えると
部長もなんだか困り顔になり、苦笑いを浮かべている。
そんな顔を見てしまうと言葉が詰まってしまう。
またこんな空気にさせてしまって・・
私って本当に会話をするのが苦手で嫌になっちゃう・・
なにか・・何か言わないと・・
梨子「あっ・・・あ、あの!またレッスンがない日は参加させてもらっていいですか?」
私が少し声を張り上げ、尋ねると部長は困り顔から、ふっ・・と優しい笑みへと表情を変えた。
「当然よ。あなたは部員なんだから」
その返事に私は心の底から安堵し、
ありがとうございますと部長に深く頭を下げたあと、急いで片付けを済ませ駆け足で美術室のドアをあけると
「お世辞じゃなくて本当なんだけどなぁ・・」
と声が聞こえてきた。
進路指導室にて、私は担任の先生と向き合っている
「急に呼び出してごめんなさいね。進路調査票についてのことなんだけどね。桜内さん まだ提出出来ていないわよね?」
やはりこの件だった。
お、怒られる・・
私はその言葉に萎縮してしまう。
あぁ・・どうしよう。なんて言い訳すればいいのだろう・・
先生はそんな恐縮しっぱなしの私を見て、首を横に振って笑う。
「あ、違うのよ。怒っているわけじゃ無いの。桜内さんは成績も優秀だし、生活態度も素晴らしいから先生達みんなも凄く気にしているの。どうかしら・・・どこかそろそろ決まった?」
よ・・良かった。
怒られるわけじゃなかったんだ・・
私はほっと安堵の息を漏らすと
先生に私が行きたい高校の名を告げる。
梨子「私・・・高校はUTX学園を受けようと思います。」
「そ、そう!ついに決めたのね。よかったわね。桜内さん進路決まって!」
先生は本当に嬉しそうにぽんと柏手を叩く。
UTX学園は都内・・いえ、国内最高峰の音楽科がある高校と言われている学校。
海外留学プラン、大手芸能事務所とのコネクション、UTX劇場という学校自前のライブ会場といった普通の学校ではないような設備や施設がが整っている。
もちろんそのぶん入学金ですら100万円を超えるなどかなり高額な学費が必要となる。
だから、そう簡単にUTXを受験したいなどとは言い出せずにいたけれど
先日母が私にUTXを受けてみたらと言ってくれた。
私は母に一言も相談しなかったのに、全てを見抜かれており、
学費の事は気にせず、私が行きたいところを受けなさいと言ってくれた。
それから、すぐには中々決心はつかなかったけれど
やっぱり本当は私はUTXへ行きたいと母へ告げると笑顔で快諾してくれた。
梨子「・・・その・・UTXの卒業生には今プロのピアニストとして第一線で活躍している方も大勢いますので。」
「そうね。桜内さんはプロのピアニスト志望なのよね?」
梨子「はい。・・・私はこんな性格で・・人に誇れるものなんてあまりないんですけど・・ピアノだけは誰にも負けたくないんです。私の唯一誇りなんです。」
私は絞り出すように先生に自分の今の気持ちをぶつける。
私はピアノに対する気持ちだけにはウソはつきたくなかったから。
「そう。なら絶対に合格しないとね」
といって先生は静かに微笑んだ。
梨子「はい!」
私がそう答えると、先生は少し意地悪そうな顔になる。
「でも、UTXの音楽コースはそう簡単じゃないわよ〜。筆記試験とピアノの実技試験。それと今までの実績ね。
桜内さんの事だから筆記試験と実技試験は大丈夫と思うけれど、UTXはコンクールでの実績を何よりも見るから一概に合格できるとは私にも言えないのよね。」
梨子「あの・・それなんですが来月全国規模の大きなコンクールがあります。私絶対にそこで必ず良い成績を取ります!そこで結果を出せばUTXにも合格できるはずなんです。」
私が声を張り上げて、宣言すると先生は目を丸くしたあとすぐに笑顔へと変わる。
「嬉しいわ。桜内さんいつも自信なさそうにしてるからこんな自信満々に応えてくれると私までなんだか元気になってきちゃう。」
梨子「・・両親がここまでサポートしてくれるのなら私もそれに全力で応えたいんです」
「桜内さんなら絶対に合格できるわ。ふふ、その意気よ」
そういってがっしりと手を握られた。
良かった。
しっかりと自分の意見を伝えてスッキリした。
それに自分の思いを口にすると迷っていた心に決心がついた。
私は絶対に合格する、してみせるという覚悟が生まれた気がする。
そんな自信満々の私に、ただね・・と指を一本立てて先生が言葉を私へと投げる。
「ただ第二希望というのも考えてみたらどうかしら。もちろん私は桜内さんが合格することを信じているけれど何かあった時のための保険は必要よ。」
先生の考えは至極当然だろう。教え子を中学浪人にさせたくはないはずだ。
それに私だってそんなのはさすがに嫌なので、考えてはある。
梨子「はい。一応考えてあります。」
「どこの高校か聞いてもいい?」
梨子「音ノ木坂学院高校です。」
家に帰り、台所で母と2人で夕飯を食べていると
「善子、あなた最近なんだか楽しそうね」
と母に言われた。
善子「そう・・・・かな。いつも通りだと思うけど。そう見える?」
「ええ、見えるわ。あなた最近家に帰ってきてつまらなさそうにしてるもの。」
善子「意味わかんないわよ逆でしょそれ。つまらない顔してたんなら学校で嫌なことあったと思うべきでしょ」
「だってあなた 中学の時から家に帰った途端凄い嬉しそうな顔して、私にばっか話しかけてたじゃない。よっぽど私以外に喋れる人がいないんだなって察したわ・・・」
そういって母は軽くため息をついたあと
「だから、今はその逆で家にいる方がつまらなさそうだもの。何か良いことでもあったのかなって」
私に微笑んだ。
私がつまらない顔をしていた・・?
この最高の癒しの場所であるこの家で・・?
前までなら絶対に言われなかったセリフに私は驚く。
この人はやっぱり親だ。
なんだかんだ言いながら私のことをよく見ている。
できる限り、私はいつもと同じように振舞っていたつもりだったけどその些細な違いに気がついていたようだ。
・・もしかしたら母は私が学校に行っていないことにも気づいているんじゃないだろうか。
私は母の顔をチラッとみると母は頭上にクエスチョンマークを浮かべたようにキョトンとした瞳でこっちを見る。
うーん・・やっぱり気づいてないようにも見える・・
どっちなんだろ・・
善子「別に学校は楽しくないけど・・・その・・友達が出来たわ。」
「そう良かったわね・・へ?」
母の声が上ずったような声になる。
その後何かを顎に手を当て何かを考えた様子へと変化し、すこし沈黙が続いたのち
「よ・・善子 あなた・・」
な・・何よ
「善子お友達出来たの!?!!??????ほんと、ほんとうなの?またアニメとか漫画のキャラクターの事を言っているんじゃないでしょうね?架空のお友達は、お友達とは言わないのよ?」
なんかぐいぐいときた。
ちょっと・・この驚きようはいくらなんでも失礼すぎやしないだろうか・・・
確かに私は友達がいなかったけど
自分の娘への評価が低すぎるでしょ!
善子「現実の友達よ!!!まったく私をなんだと思っているのよ!」
「だってあなたの口から友達なんて単語が出ると思わないじゃない!」
親とはとても思えない言い草だ。
ひ・・ひどすぎる。
しかし、私には前科がある。母の気持ちもわならなくもない。
以前に恋人が出来たといって紹介したのがアニメの・・
あああああああああ思い出したくない。忘れろ忘れろ・・
善子「確かに前の時はそうだったけど、今回は本当よ!!!ほら、写真だってあるんだから!」
そういうと私はテーブルの上に置いていたスマホを持つと、カメラロールから私と梨子さんとの2ショット写真を開く。
画像にはスマホ画面いっぱいに私と梨子さんの顔が映し出されている。
「す・・凄いわ。この子の生きているのよね?ほ、本物の人間だわ・・」
・・なんつーリアクションよ。
友達の画像を見せて本物の人間とか生きているのよね?なんてリアクションを取られた人はそうそういないだろう・・
善子「もうっ。そういう反応はもういいから!」
「ごめんごめん。・・すっごく可愛い子ね。お名前はなんていうの?あなたより年上よね?学校の先輩?」
どんどんと質問が飛んでくる。その表情は実に嬉しそうだ。
こんなに嬉しそうな顔の母を見るのはいつ以来だろう。
善子「うん・・学校の先輩。梨子さんって言うの。すっごく優しいの。」
「ここら辺の子?・・なんだか私見たことある気がするわ。この子。どこで見たのかは忘れちゃったけど」
善子「それきっと勘違いよ。だってこの先輩、最近東京から引っ越してきたんだもの。それに住んでいるところもここからは遠いもん。」
「東京の人なの?確かにそれだと会ったことはないわよね・・でもどっかで見たことある気がするんだけどなぁ」
善子「だから勘違いだって。」
「そうなのかしら。でーもどっかで見たことあるのよ この顔。」
善子「だから絶対に勘違いよ」
「でもねぇ・・」
このようにお互いに全く譲ることなく押し問答を何度か続けていくと母がさすがにめんどくさくなったのか、話を切り替えた。
「ふぅ。ま、何はともあれ。めでたいわね。あ、ほれなら今日のお夕飯お赤飯にすればよかったわね。善子にお友達ができた記念に」
純粋に笑みを浮かべる母に私は
「恥ずかしいからやめて!!!」
私は絶叫するように言う。
そんなことされたらたまったもんじゃない。
お友達が出来て一家の食卓にお赤飯が並ぶとか、入学したての小学一年生レベルの話だ。
ぷりぷりと怒る私に母は茶化すように冗談よと笑う。
善子「今度ね、一緒に洋服も買いに行くんだ。」
「あー・・そうしてもらいなさい。あんたの服変なコスプレみたいなのばっかだし、お小遣いあげるからまともな服を見繕ってもらいなさい。」
善子「あ、ありがとう。でも・・そ、そんなに変かな・・あの服。」
「変よ。あの服着られてたらあんたに離れてっていうわよ。親子と思われたくないもの。」
恐ろしく冷めた声で私を見つめながら言う。
善子「じ・・冗談きついなぁ・・」
はは・・と乾いた笑いが出てくる。
苦笑いを浮かべて母に言うと
「冗談じゃなくて本心よ本心」
母は真顔でデザートのアイスをパクパクと食べながら言った。
善子「は・・はは・・・・・・・」
そうして今日も津島家の夜は過ぎて行った。
桜内梨子の不登校の日々2
この日、予選大会の日を私は迎えていた。
会場に入ると参加する子みんなが私を見つめ敵を見るかのような冷たい視線が刺さる。
桜内さん出るんだとか、またコンクール荒らしに来たわ。今まで出てなかったのになんで今回だけ出るかなぁとかボソボソと私の悪口も聞こえてくる。
気にしちゃダメ
どうせいつものこと。
私がコンクールに出るといつもこうじゃない。
小学生の時から私はコンクールに出て多くの賞を取って来た。
私が賞を取ることで友達や家族みんなが喜んでくれた。
私はそれが嬉しかったから何度もなんどもコンクールに出て賞取り続けて来た。
でもその分、勝ち続けるということはそれだけ多くの人を蹴落として来たということだ。
勝つということは嫉妬を生む。
嫌がらせだって数えきれないくらいに受けた。
いわれのないこともたくさん言われた。
そうしていくうちに私はだんだんとピアノを弾くのが辛くなり、ここ最近はコンクールから遠ざかっていた。
お母さんも「そんなに辛いのならピアノを辞めて良いのよ」と言っていた。
私はその言葉に何も返答できず、ただ黙っていることしかできなかった。
「1番・・・さん・・予選課題曲は・・・・です。」
ついにコンクールが始まった。
私の手がかすかに震えだす。
私の番号は9番だ。
順番が近づくたびに少しずつ緊張が高まっていく。
いつものコンクールとは違う。
今回のコンクールは私のこれからがかかっているのだ。
昔はただ楽しかったからピアノを弾いていた。
でも今はそういうわけにはいかない。
楽しさだけでは足りない。
プロのピアニストになるためには、とにかくコンクールで結果を残すことが大切。
楽譜通りにミスをしないことがコンクールでは求められる。
自由の無いピアノかもしれない。
でも私はここで勝ちたい。
私はピアニストになりたいから!
「次の演奏は9番 桜内梨子さんです。」
名前が呼ばれ、私はステージへと足を進める。
私が登場すると大勢の拍手が私に降り注ぐ。
心臓の音が跳ね上がっていく。
手が震えそうになる。
私はピアノを弾く。
楽譜通りに弾く。
音を一音たりとて間違えないように
私は集中をする。
集中・・・集中・・集中!
鍵盤に手を乗せ、弾き始めるとすぐに違和感に気づく。
なんなのこれ・・。すごい・・
手が・・
手が動く。
まるで機械のように、私の手が自動で動いてるかのような錯覚に陥る。
こんな感覚はピアノを弾いてから初めての経験だった。
すごい・・
私の中に作曲者の気持ちが溢れてくる。
あぁ・・・こんな気持ちをこの楽譜に込めていたのね・・
違った。
楽譜通り弾くっていうことは、不自由なことなんかじゃない。
私が今までやってきたことはただなぞるだけ。
本当に楽譜通り弾くってことは作曲者の想いを弾くってことなのね
わかる。わかるわ。
あぁ・・あなたはこんな気持ちでこの曲を作ったのね・・
今の私ならあなたの気持ちをみんなに届けることができる。
この楽譜に込められた想いを!
・・・
「ただ今の演奏は 9番 桜内梨子さんの演奏でした。」
弾けたっ・・・・
・・・・・弾けたっ。完璧に弾けたっ!
一つもミスをしなかった!
間違いなく私のピアノ人生の中で最高のピアノが弾けた。
私が頭を深く下げるとひときわ大きな拍手が私を包みこんだ。
やった・・・これなら私は間違いなく本戦に行ける。
UTXに進学できる!
そこで私もっともっとピアノを練習して必ずプロのピアニストになるよ。
お母さん 私はあの時黙り込んで何も言えなかったけど今なら言えるよ
お母さん 私ピアノが大好きだよ。だからね、絶対にピアノは辞めないよ
今日も私達は海岸でただ、海を見てる。
学校に復帰をするという最終目標を立てたは良いが、すぐに何かを変えれるわけではなく、行動できるわけでもない。
私達は、もはや日課と化したようにブルーシートの上で私達はとりとめのない会話をしている。
梨子「今日も暇ねぇ。」
梨子さんは口に手を当てながら、ふああと欠伸をする。
善子「ほんとよね」
私はそれに相槌を打つ。
もちろん探せばやるべき事など数多くあるのだけれど、私達はあえてそれをしない。
辛いこと、嫌なことに立ち向かうのはやはりそう簡単なことではない。
そんな立ち向かえる強さがあればそもそも不登校なんてなってないしね。
1人で学校を休み続けるのは不安だけれど2人で休めば怖くないという
まるでクズみたいな考えに至りつつ、2人で絶賛現実逃避中なのである。
梨子「そろそろお腹すいたわね・・」
梨子さんがチラっと腕時計を確認しながら呟く。
梨子「もうお昼ね。どうする?今日もこれからコンビニでご飯買って私の家に行く?それともここでランチと洒落込む?」
ちら・・と梨子さんは私の顔を窺う。そんな梨子さんに私は意を決して言う。
善子「あ、あのさ。」
梨子「なぁに よっちゃん」
善子「あのね・・・今日お母さん、夜までお出かけしてるの。」
梨子「あら、そうなの。それじゃ割と遅くまで今日は遊べそうね」
私の言葉に梨子さんは嬉しそうな顔をするが
私は慌てて両手を前に出してブンブンと振り、否定する。
善子「あ、いや・・そういうことじゃなくて!」
梨子「ん?違うの・・?」
善子「えーと・・・その!、リ・・リリー 私の家に遊びに来ない!?」
梨子「あら。お呼ばれしてもイイの?ご迷惑じゃないの?」
善子「め・・迷惑だなんてあるわけないじゃない。なんならお茶にお菓子だって出て来るんだから!お腹いっぱいになるんだから!」
私の必死の説得に、梨子さんは苦笑いと微笑みの中間のような笑みを浮かべる。
梨子「わかったわ。それなら、ぜひお呼ばれされちゃう。」
その言葉にほっと胸をなでおろす。
やった、やった。
梨子さんが私の家に遊びに来る!
頬が自然と緩んでくる。
梨子「でも、なぁに その誘い方、お母さんがいないから遊びに来てなんて、まるで恋人を家に連れ込む時の言い訳みたいよ。取って食べらたりしないでね」
そういって梨子さんはニヤニヤとした表情を浮かべる。
善子「ち、違うわよ。もうっ。取って食ったりしないから!」
梨子さんも私の家に着くとガチガチに緊張していた。
表情が強張り手と足が震えている
あげくには
梨子「ね、ねぇ。何か手土産を買って来た方がよかったかしら・・・・?」
これときたものだ。
よくもまぁ、私のことを言えたものだ・・・
善子「いらないわよ・・言ったでしょ。お母さん帰ってくるの遅いって・・誰も家にいないわよ」
梨子「で・・でも!」
そういってぶつぶつ何か言ってる梨子さんを見てると
私達はやっぱり似た者同士なんだと再認識させられ、ちょっと嬉しくもなってくる。
梨子「な・・なによ。その顔はぁ」
善子「べっつにー。なんでもない。ただ、リリーって可愛いなぁって」
梨子「うぐぐ・・よっちゃんにからかわれるなんて不覚・・」
善子「ほら、中に入るわよ!」
私はそういって、梨子さんの手を握り家の中へと手を引いた。
私の部屋に梨子さんが来て一緒にご飯を食べ終わる。
私の家、私の部屋に家族以外の人がいることがとても新鮮だ。
家族には、私の部屋には入るなと口やかましく言っていたけれど
梨子さんが私の部屋に入るのには、全然抵抗もない。
それどころか、とても嬉しくすらある。
人をもてなすのは楽しい。
どうやったら梨子さんが喜んでくれるんだろう。
そんなことを考えているのがとても楽しい。
梨子さんはゲームは好きだろうか。
それとも漫画は読んだりするのかな。
絵が好きっていってたから2人で何かイラストを書いても良いかもしれないよね。
何をしよう。
何をしたら梨子さんは楽しんでくれるだろうか。
そんなことを思いつつ、私は自分の部屋をくるっと見回すとある物が目に入った。
良いもの見つけたわ。
善子「よーし・・」
私はパチッと電気のスイッチを消すと部屋は真っ暗になる。
梨子「ね・・ねぇ・・!なんで電気消したの!?」
私の突然の行動に慌てて梨子さんが私に聞き返す。
善子「そりゃあ これからやるからよ。とーっても梨子さんにが楽しんでくれそうな事を・・」
そういってにニヒヒと笑う私とは対照的に梨子さんは不安顔になる。
梨子「・・・やっぱり・・・私取って食べられるの?」
善子「ち!が!う! わ!よ!リリーが前にタロット占って欲しいっていってたじゃない!」
梨子「あ、そういうことね・・・」
蝋燭に火をつけ、ぼやーっとした灯りの中私はタロットカードをテーブルの上で混ぜている。
善子「タロットカードはね、上下の向きはごちゃまぜで占うのよ。」
私がそういうと梨子さんはへぇっと感嘆の声をあげる。
善子「これで準備オーケーと。じゃあ集中してね。自分のこれからについて意識を高めてね」
私は一つの束になったカードを3つにわける。
善子「どの順番に重ねて行くか決めるから上にしたい順で選んでいって」
梨子「じゃあこれが一番上・・これが真ん中・・これが一番下で・・」
梨子さんは3つの束を順番に指をさして行く。
善子「その順番ね、わかったわ」
私は梨子さんが指差した順にカードを重ねて生き、再び一つの束となる。
善子「じゃあ、上から順番に3枚くばるわよ」
1枚、2枚、3枚と一つずつカードを梨子さんの前に並べる。
善子「リリーから見て左側から過去、現在、未来を表すカードになっているわ。めくって見て。」
私の声に頷くと梨子さんは過去のカードからめくりはじめる。
善子「過去のカードは世界の逆位置ね。世界のカードは成功や完全といった正位置で出た場合最高のカードなんだけど、逆位置だから意味が反対になるわ。つまり挫折や不完全といった意味合いになるわ。」
梨子「・・・挫折・・・ね。じゃあ次のカードも引いていい?」
善子「うん、そうして。」
私が頷くと梨子さんは現在のカードをめくった。
善子「現在のカード・・これは恋人の正位置ね。意味通り恋愛関係の意味があるんだけど・・もしかしてリリー 誰かに恋しちゃってるー?」
梨子「ま・・まさかそんなわけないわよ!こ、恋だなんて・・そんな・・」
にやにやとする私に梨子さんはむーっとむくれ、それから不敵な笑みを浮かべた。
梨子「あ、もしかしたら私よっちゃんに恋しちゃってるかも。ねえ、よっちゃんはどう思う?」
そういってくぐっと顔を近づけられる。
善子「うぐっ。あ、ああアリエナイでしょ」
梨子「ええ、冗談よ」
ううう・・・やり返されたわ。
善子「も、もうっ。カードの解説にいくわよ。恋人のカードの他の意味としては選択や決断を表すから、リリーは今大きな選択を迎えているということになるわ。そういう心当たりはって・・ありまくりよね・・どう考えても不登校のことだわ。」
梨子「選択・・ね。」
善子「きっとこれは学校にいつ復帰するのか選択しろってことよね・・・」
梨子「そっか・・・・」
私の言葉に梨子さんは真剣に何かを考えている。
善子「最後のカードもめくってみて。それがリリーの未来よ。」
梨子「わかったわ。」
梨子さんが残された最後のカードをめくった。
梨子「未来のカードは・・塔の正位置ね。・・・・さて、これまでの結果を総合するとリリーは挫折を乗り越えて、大きな選択をする事が待ち受けているわけだけど、失敗しないようによく考えて行動すること。例えば人に相談するとかもいいかもしれないわね。」
梨子「挫折に・・選択かぁ・・・うん、なんかとっても当たってる気がする。凄いね よっちゃん」
善子「そ、そう。」
えへへへへと頬をぽりぽりと掻く。
梨子「あ、ごめんね。少しお手洗い借りていい?」
善子「うん、場所は玄関のすぐ横のとこね。ついていこうか?」
梨子「んー。でも大丈夫。わかったわ ありがとう。」
そういうと梨子さんは部屋から出ていく。
梨子さんの姿が部屋から完全に消えたところで・・・私はふぅっと息を吐く。
未来のカードが塔の正位置か・・・
勿論、私は梨子さんがやった占いの結果やアドバイスについて嘘は言ってはいない。
だけど私はそのカードの持つ意味に関して一抹の不安を禁じえなかった。
'번역대기 > 츠시마 요시코의 부등교의 나날' 카테고리의 다른 글
츠시마 요시코의 부등교의 나날51~63 (0) | 2020.07.14 |
---|---|
츠시마 요시코의 부등교의 나날41~50 (0) | 2020.07.14 |
츠시마 요시코의 부등교의 나날31~40 (0) | 2020.07.14 |
츠시마 요시코의 부등교의 나날21~30 (0) | 2020.07.14 |
츠시마 요시코의 부등교의 나날1~10 (0) | 2020.07.14 |