츠시마 요시코의 부등교의 나날
津島善子の不登校の日々
https://www.pixiv.net/novel/series/839643
梨子「あら、よっちゃん どうしたの。そんな顔して」
お手洗いから私の部屋に戻ってきた梨子さんは開口一番でその言葉を口にした。
善子「ふぇ・・?」
梨子さんからの予想外の言葉にドキッとしてしまい変な声が出てしまう。
善子「・・・私どんな顔してた?」
梨子「酷い顔よ。まるでこの世の終わりみたいな・・そんな顔。なぁに何か大変なことでもあったの?」
善子「え・・えーっとそれはぁ」
私はどう答えたらいいのかわからずに言い淀んでしまう。
まさか私が占ったタロットカードで梨子さんに何か起きるんじゃないかなんて言えるわけがない。
私のタロットカードなんてあくまで素人技なのにあえて梨子さんを不安にさせる必要もない。
善子「も・・戻ってくるのが遅いから私の家から帰っちゃったんじゃないかなって・・」
梨子「・・・・・」
・・・梨子さんは慌てて誤魔化す私をじーっと見つめたあと慈愛に満ちたような優しい表情になる。
梨子「・・・よっちゃん・・もしかして昔、そういうこと友達にされたの?」
・・・なんか変な誤解をされているらしい。
善子「いや・・あの・・その・・」
梨子「良いのよ・・辛いことは思い出さなくて・・大丈夫。私は何も言わずに勝手にいなくなったりなんかしないから」
そういってギュッと手を握られる。どうも私は友達を家に呼んだが帰られた経験があると思われているらしい。
善子「あぁ・・うん・・ありがとう・・」
・・・酷い誤解だ・・・いくらなんでもさすがにそんなことはされてはいない。
ふふん、自慢じゃないけどそもそも私は友達を家に呼んだのなんて小学生の時以来ないんだからそんなことあるはずないじゃない
言ってて悲しくなってきた・・・
善子「そ、その話は置いといてさ。リリー、テレビゲームでもやらない?」
梨子「てれびげーむ?」
善子「うん、ほら私結構オタクでゲームとかいっぱい持ってるんだ。梨子さんはゲームとかあまりやらない?」
梨子「昔はよくやってたわよ。あまり人付き合いが得意なタイプじゃなかったしね。家で1人でやってたわ」
善子「ほんと!?ならやらない!?」
そういって誘いをかけるが、梨子さんは頭をぽりぽりと掻いて返答に困っているようだ。
梨子「う・・うーん。昔は得意だったけど今はそんなにうまくないわよ。」
善子「大丈夫大丈夫。私もそんなうまくないし」
梨子「なら久々にやってみようかしら」
善子「そうこなくっちゃ!」
善子「・・・・・」
梨子「・・・・・・」
私たちの間には気まずい沈黙が流れていた。
・・・・・
画面の前ではゲームキャラクターが瀕死の状態でひっくり返っている・・
・・はっきりいって梨子さんのゲームスキルはやばい・・
苦手とかいう次元じゃない・・・
レースゲームをやらせれば逆走して池や崖に落ち、
アクションゲームをやってみたら一面で穴に落ちてやられ
格闘ゲームをやってみたらパーフェクト負けをするレベル
私が手を抜いてお膳立てをしようにも全てのゲームでそれ以上の見事な自爆技で勝手に勝利してしまう事態となっていた。
善子「・・・・」
梨子「こ・・こういうゲームなんてやるの2年ぶりくらいだけど・・我ながら酷いわね・・・言い訳じゃないけど昔はそれなりにうまかったのよ?」
善子「へ・・へぇ・・・そうなのね・・」
繕うように必死に言い訳をしている梨子さんに対して私は訝しげな視線を向ける。
・・・どう考えてもウソよね・・・
初めてゲームに触った人だってもうちょいマシなプレイングになるはずだ。
梨子「・・・もうっ、信じてないわね?本当に本当なんだから!」
はいはい。
これまで梨子さんと一緒に遊ぶようになってからあることがなんとなくわかってきた。
・・それは
梨子さんは相当な不器用だということだ。
梨子さんの〇〇が得意という言葉は、真逆の意味を示しているような気がする。
絵も得意だと言っていたがアレな感じだったわけだし・・・
この分だと得意だと言っていた料理もだいぶ怪しい。
善子「ね、ねぇ。梨子さんって料理も趣味なのよね?」
梨子「ええ、そうよ。」
そういって即答した梨子さんに対して私はおそるおそる尋ねてみる。
善子「ちなみにどんな料理が得意なの・・?」
梨子「よく作るのはサンドウィッチとかかしら。あ、ハンバーグとかも得意な部類ね。自分で言うのもなんだけど私の作ったの評判良かったんだから。」
サンドウィッチにハンバーグね・・
梨子「ほら、昔作った料理の写真も撮ってあるわよ」
そういって梨子さんから見せられたスマホにはまるでプロが作ったかのようなハンバーグが皿に綺麗に盛り付けられている画像が写っていた。
・・・これってさ・・
善子「リリー・・・そのハンバーグ、コンビニで売られてるちょっと高めな出来合いのやつを袋から出して皿に盛りつけたとかじゃない?出来合いは手作りハンバーグとは言わないのよ?」
梨子「ひ・・酷い!!!そんなことしないわよ!ちゃんと正真正銘自分で作ったハンバーグなんだから!」
善子「あはは・・・ごめんごめん、冗談よ冗談・・・」
ヤバい
料理は本当に得意だったようだ。
私は必死になって違う違うと誤魔化す。
梨子「・・・目が本気のように見えたけれど」
き・・気のせいだって
善子「ほ、ほら。そんなことよりまた何か別なことして遊ぶわよ! な・・何か 他に楽しめそうなものあったかなぁ!」
私は必死に誤魔化すために話を変え、梨子さんに背を向け、押入れの中から何か遊べそうなものを探し始める。
・・・
うう・・いくらなんでも強引だったかな・・
後ろから梨子さんのじーっと突き刺さる視線をすごい感じる・・・
明らかに納得いってない様子だ。やっばぁ・・
私は冷や汗を額に滲ませながら押入れの中をガサガサと探し続けている。
これは相当に何か梨子さんの興味を引くものを見つけなければいけないだろう。
しかし、なかなかめぼしいものは見つからない。
もっと奥の方に何かしまってたかな・・
奥の方を見ると蓋の空いた缶ケースが目に入った。
中には無造作にカードが山のように置かれている。
うっわぁ・・・懐かしい。
昔小学生の時にやってた2人対戦用のトレーディングカードゲームだ。
対戦相手とかいなかったからいっつも1人で二つのデッキ回してやってた思い出が脳裏によぎる・・・
あんな小さい頃から私友達いなかったのか・・・
幼い頃から何一つとして成長していない自分にもはや笑いすら出てくる。
ん?2人対戦用・・?
あ、これで梨子さんと遊べるじゃん!
カードは山のようにあるんだし、
梨子さんにもカード分けてあげて、2人でデッキ作れば念願の対人戦ができるじゃん!
よし、それでいこう!
善子「リリー 良いもの見つかったわよ。カードゲーム!今そっちに持ってくわ」
そう言って私はカードを取ろうと更に奥へと手を伸ばした時に横にあった雑誌の群れに手がガンと当たった。
いったぁ!
もうほんと狭いなぁ。
梨子さん帰ったあとでちょっとは片付けしようかしら。
そんなことを考えつつ再びカードが入った缶ケースに手を伸ばした時に後ろから梨子さんの声が聞こえた。
梨子「よっちゃん危ない!」
善子「へ・・・・」
押入れをゴソゴソとしていると横に積み重ねていた雑誌や漫画などが先ほどの衝撃でくずれ落ちてきたのが見えた・・
はは・・・
これ・・・やばいよね?
ぎゃああああああああああ
雪崩のように私に襲いかかり、全身が押入れの埋もれてしまう。
なんでこうなるのよおおおおおお
梨子「よ・・・よっちゃん! 大丈夫!?うっ・・重い・・」
押入れの中の物に埋もれていた私の上から本などをどかし、引っ張り出そうとしている。
梨子「ごめんね。私力無くて・・なかなかどかせない」
善子「だ・・大丈夫よ。このくらいの重さなら立ち上がれるから」
そういって私は散らばった雑誌を背中に乗っけたまま立ち上がると、背中に乗っていた雑誌が床へとドサドサと音を立てて落ちる。
善子「心配してくれてありがとう。大丈夫。どこも怪我してないわ。」
梨子「ほ・・本当に大丈夫?怪我ってのは甘く見ちゃダメよ。こういう些細なことでも取り返しのつかないことになっちゃうこともあるんだから」
そう言って私のことを真剣な眼差しで心配してくれる梨子さんに私は笑顔で答える。
善子「うん、どこも痛くないし、本当に平気よ。心配してくれてありがとう。」
そう言って私は平気だとアピールするために全身をポンポンと叩いてみせる。
梨子「ならいいんだけど・・・もうっ、よっちゃんいくら片付けるのが面倒だからといって何でもかんでも入れれば良いってわけじゃないのよ。それは整理じゃなくて綺麗に見えるように隠しただけよ。」
少し叱るような口調で私を諭す梨子さんの目はまだどこか心配そうにしており、
善子「言葉もありません・・・」
と私は俯くことしかできない。
うう・・せっかく今日は梨子さんに良いとこを見せようとしていたのにやっぱり私のダメダメな部分が出てしまう。
そんな私を見て梨子さんが額に手を当て、はぁ・・・とため息をついたあと
梨子「ほら、そのカードで遊ぶんでしょ?それなら遊ぶ前に一緒に片付けてあげるからそれからやりましょ?」
善子「う、うん!速攻で片付けるわ!ごめんね・・・一緒に片付けてくれるなんて」
梨子「良いのよ。私達お友達じゃない。そらに私お掃除も結構好きだから気にしないで。さて、本棚はそこにあるわね」
そういって梨子さんは押入れの中に散らばっている本を一冊取り上げると裸の男性同士が絡み合ってる絵が描かれた表紙が私の目に映った
善子「・・・・・・・・・・」
梨子「・・・・・・」
物凄く気まずい空気と沈黙が私と梨子さんの間に流れた。
お、終わったわ・・・
私の部屋はしーん・・・と静寂が満ちていた。
なんという気まずさ・・重い空気が私と梨子さんを包んでいる。
梨子さんが手に持っているのは数年前に私がイベントで買った同人誌だ。
どっからどう見てもBLものです。本当にありがとうございました。
梨子さんがオタク界隈に詳しくなかったとしてもこの薄い本からはあまりにも禍々しいオーラを放っている。
ちなみに表紙を開くとね。1ページ目から屈強な男達が▲▲や□□といった風にとても口には出しては言えないようなことをしている超弩級のぶっ飛んだ本なのである。ふふん!
・・・・
・・・・・いや・・あの・・ほんと言い訳させて欲しいんだけどね
普段は私もBL本なんて買わないのよ?
まだBLよりは乙女ゲー(主人公が女性で相手役が男性のゲーム)のノーマルカップリングの方が好きだし
普段買う同人誌もエロよりはギャグとかの健全なやつばっかなんだから。
だ・・だけどさぁ。
私だってなんだかんだで年頃の女の子だしぃ。
女の子のオタクならやっぱりちょっとくらいBLに興味くらいあるじゃん?
それに私結構アニメオタクだったりするし、
この同人誌の原作アニメ好きだったのよ
なんかダークな世界観と暗黒の力を持った主人公とかさぁ。
すっごい私好みだったわけ。
・・・・まぁ、そういうわけで買うじゃない?
売ってたら買っちゃうでしょ?
そうよ。
欲しかったから買っちゃったのよ 悪い!?ええそれだけよ!!!
と、こんな風に逆ギレ気味にでも梨子さんにいってしまえたら良いのだが、そんなわけにはいくはずないわけで・・・
ほんとうにこの状況はまずい
すでに地に落ちている私の評価が変態女の称号を得て更に地中まで埋まるくらい評価が酷いことになりかねないわ
梨子さんにはどう説明したらいいものだろうか
当の梨子さんはそんな禍々しさmaxの本を手に持ったままじーっと私を見据えたあとゆっくりと口を開いた。
梨子「・・・よっちゃん こういうのが好きなの?」
善子「ち・・違うの 違うのよ! 普段は乙女ゲーの同人誌ばっか買うの。これはたまたまなのホントにたまたま買っちゃったの!」
我ながらわけのわからない言い訳をしている。
こんなホモホモしさマックスの本をたまたま買うような女はむしろ逆にヤバいやつアピールにしかならないだろう。
あああああああ
もう居た堪れない。
穴があったら入りたい。なんでこんなに私ついてないのよ・・・
友達が初めて家に来た日にこんなことが起きてしまうなんて!
そんな動揺しまくりの私を尻目に梨子さんがしれっとした口調で言葉を発した。
梨子「ねぇ よっちゃん。これ読んで見て良い?」
善子「え!?読むの!?」
予想外の言葉に私は目を丸くしながら答える。
梨子「ええ、良いかしら?」
善子「ダメ!それ・・り・・梨子さんが読むような本じゃないよ!そのちょっとエッチなやつで・・・・」
私は本の中身の恥ずかしさからもにょもにょと口ごもってしまう。
梨子「あー・・そういうこと?別に平気よ。その・・・・実を言うと私も結構同人誌買ったりしてるし」
善子「え・・・梨子さんがいう同人誌って白樺派とかそういうのじゃなくて、その・・薄い本的な同人誌?」
梨子「ええ、薄い本的な同人誌よ。ほら・・・覚えてるあのpixivの時とか・・・そういう絵・・ばっかブックマークに登録してたから見せたくなかったのよ」
pixiv・・・・
そういやあの時梨子さん凄い慌てていたわ、
善子「あ・・・あー!!!!!そういうことだったのね」
梨子「だからよっちゃんもこういう趣味あってなんだか嬉しいな。ほら・・こういう話って中々出来ないじゃない?世間体とか色々とね・・」
善子「わかる!わかる!」
そういって私たちは年齢相応の少女らしく頬を染めながらきゃーきゃー言い始める。
まぁ、私はそもそも梨子さん以外友達がいないから、普通の話すらするのは困難なんだけどね
善子「ね!梨子さんってどんなジャンルが好きなの?私はやっぱゲームキャラクターとかアニメキャラクターかな。ちょっと闇系なキャラとか好き。リリーもアニメキャラクターとか?」
私がそうたずねると梨子さんは少し遠慮がちに首を横に振る。
梨子「ううん・・・アニメキャラクターじゃないの・・・」
善子「じゃあゲームキャラクターや小説のキャラクター?」
梨子「それも違うわ。」
善子「じゃあオリジナルキャラクター?」
梨子「まぁ・・・それが1番近いかしら」
なんだか歯切れが悪い言い方だ。
それ以外に分けれるものがあるのだろうか。
善子「ジャンルはノーマル?BL?それとも・・百合だったりして!」
梨子「えっとどれも全部好きだけど・・私が1番好きなのはね」
私の尋ねた質問に対して、梨子さんは少し恥ずかしそうにしながら返答をした。
梨子「か・・・壁」
は・・・はい?
善子「・・・・・・・壁!?壁ってこの壁?」
そういって私は第二関節を曲げた人差し指でコンコンと壁を叩いていう。
梨子「うん・・・壁・・・」
善子「そっか・・壁かぁ・・・・」
・・・
レ・・・レベル高いなぁ・・・・
まさか梨子さんが無機物好きだとは・・・・
・・・確かに数は少ないけどそういうジャンルがあるのは知ってはいたが実際にいる人を見ると驚いてしまう。
とはいえ、私はこのくらいでドン引いたりはしない。
私だってこんな禍々しい本持ってるしね。
人には人の好きが千差万別ある。
それにジャンルとしてはナマモノ(現実に存在する人)みたいなやつに比べれば、無機物なんてまだまだ中堅寄りよね。
とはいえ
善子「なんで壁なのよ?」
私は至極当然な質問を梨子さんにぶつける。
こんなに色々ある中で無機物、しかも壁というニッチなものを選んだのか。
梨子「それはね、話できる人がいなくてずっと壁に話しかけてたら愛着湧いてきちゃったのよ」
物凄く悲しい理由だった!
梨子「ほら、壁って何も言わずに私の話聞いてくれるじゃない?」
そういって梨子さんは遠い目をしている。
まぁ確かに壁は喋らないからね・・・。
逆に壁が喋りだしたらホラーってレベルじゃないわ・・・
だけど無機物でどうやって愛を表現したりするのだろう。
ちょっと下品な話、鉛筆や鉛筆削りのカップリングだとかは無機物カップリングでもイメージつきやすいのは
まぁ・・・そのなんていうか・・見た目からしてなんとなくわかるじゃない?
それに比べて梨子さんが好きなのは壁・・・
形ですらただの平面である。
いったいどうやって壁でどうやって愛を描くのよ・・・
割と普通に気になってきた。
私は少し興味深げに梨子さんに尋ねる。
善子「やっぱり壁を擬人化させたりするの?」
梨子「はあああああああ?何言ってるのよっちゃん そんなわけないでしょ!」
梨子さんがキレた。ガチギレである。
近い近い近い。
梨子さんは私に一気に詰め寄り、クワッと目を見開いている。
怖すぎる・・・
これほど大きな声で梨子さんに否定されたのは初めてだ。
まずった・・・
この質問は梨子さんに対して地雷だったらしい・・・・なんだか嫌な予感がする・・・。
梨子さんはその大きな目を更に大きく見開いて私に言う。
梨子「あのねぇ、よっちゃん壁は壁だから良いのよ!!!!!????」
まずい・・・これめんどくさいのが始まった気がする・・・
語り出すパターンだ。
オタクの私だからわかる。女の子は自分の好きな話を始めたらもう止まらない。
もうこうなったら覚悟を決めるしかない。
め・・めんどくさ。
梨子「擬人化なんてさせたら壁の意味がないじゃない。擬人化は逃げよ!逃げ」
善子「そ、そうよね。」
よくいっている意味はわからないけれど、多分否定したらまずいので話を合わせつつ、
善子「で、でもさ。擬人化とかさせなかったら壁って動けないしなかなか絡みとか出来なくない。どうやって愛を表現するの。」
と質問をぶつける。
梨子「・・・よっちゃん。あなた素晴らしいわ。
梨子さんの目が輝いている。もうなんか目から何か出そうなくらい光り輝いている。
梨子「壁クイよ!」
またわけわからん単語が飛んできた。
善子「ぇ、なに、壁に何するって・・・・?」
梨子「だから壁クイよ 壁に女の子がね、こう人間の顎をクイってするようにするの。」
私の知らない世界がまだまだあるようだった。
誰か助けて・・・・・
それから物凄い時間、梨子さんは語り続けた。
もうなんかどっと疲れたよ・・・
善子「えー・・・つまり、リリーは人間の女性と壁の組み合わせが好きってことでいいのよね。」
梨子「簡単にいうとそういうことね。今度遊ぶときがあったら持ってくるわ。絶対よっちゃんもハマってくれるから!」
マジかよ・・・
善子「あ、ありがとう」
その後 私たちはカードで遊んだり、ゲームをしたりした後、梨子さんが家に帰った。
私はというとご飯を食べたあといつものごとくベッドの上でゴロゴロしている。
壁・・・壁ねぇ。
・・・・なにがそんなに良いのかしら。
私はベッドから降りてPCを起動させて
壁クイと検索をかける。
へえー・・・結構種類あるんだ・・・
ふ・・・ふーん。あ、サンプルもある。
ちょっとだけ調べてみようかしら。
カチカチ
・・・・・・・・
カチカチ
・・・・・・・・・・・
カチカチ
そして今日も津島家の夜は更けていった。
桜内梨子の不登校の日々3
気づけば私は真っ暗な闇の中にいた。
そこはなにもない世界。
そこにあるのは私という存在1人だけだった。
なぜ私がここにいるのかは分からない。
何も思い出す事が出来ない。
私は闇の中を当てもなくただ彷徨っていた。
どれだけ時間が経ったのだろう。
この世界には時間の感覚なんて存在しない。
もう何年も歩き続けた気さえしてくる。
歩くたびに私は自分の体を失っていく気がしてくる。
最初は手がなくなり
次に足も無くなった。
気づいた時には、私は顔だけになっていた。
それでも私は暗闇の中を進み続けた。
ずっとずっと進み続けているとどこからか音が聞こえ始めた。
それは海の音だった。
私は海の音など聞いたことなどはなかった。
でもそれが海の音であることだけは何故か分かっていた。
私は海の音が聞こえる方に歩き出す。
他に行くあてなど何もなかったからだ。
その音を頼りに長い間進んでいくと、ぼんやりとした光が見えた。
音が聞こえる地点へとたどり着くと急にその音は聞こえなくなる。
そこは分かれ道だった。
分かれ道のちょうど真ん中に誰かが立っていた。
暗くて顔はよく見えない。
私がその人へと近づくと
「どちらかを選んでね。梨子ちゃん。」
と声をかけられた。
私は急に話しかけられた事に驚くが、その声に対してどこか懐かしさを覚えた。
どこかで聞いた声だった。
でも、私にはその声を思い出すことはできない。
二つの道を目を凝らして見ると
一つの道には、私の体が、
もう一つの道には、私の手が落ちていた。
体の落ちている道からは、両親や友人の声がする。
手の落ちている道からはピアノの音が聞こえる。
私はその人に二つ選びたいと言うが、
「ダメよ。梨子ちゃん、どちらかしかあなたは選ぶことはできないわ。二つは選べないの。」
その言葉に私は迷ってしまう。
どちらに進めばいいのか私にはわからない。
そんな私を見かねてかその人が口を開く。
「一つだけ教えてあげる。体の道を選ぶと、あなたは後悔するわ。絶対にね。」
本当なのと尋ねると
ええ、と優しい声で言われる。
嘘はついていない。
そのことだけはなぜかはっきりと分かった。
私はその人の言葉を信じ、
そっちの方に歩みを進めると、体の道から両親が泣く声が聞こえてくる。
ダメだわ。
泣いている両親を置いていくことはできない。
とても、とても大事な人だから。
私は手の道を諦め、体の道へと進路を変える。
「あなたはそっちを選んだのね。後戻りは出来ないわよ?」
私はその言葉に対してコクリと頷く。
その瞬間、私の手があった道は、崩れ去り跡形もなくなった。
そして声の持ち主の顔がはっきりと私に見えた。
そこにいたのは笑顔で笑っている私だった。
私のこと嘲るように
なんとも嬉しそうに笑っていた。
そこで私は目を覚ました。
私は朝が来るのが嫌い。
この窓のカーテンの隙間から差し込んでくる朝の光が嫌い。
朝は1日の始まりを告げるからだ。
それに比べてなんと夜は良いことよ・・・
静寂と暗闇と月光により我が魔力も高まっていくわ・・
月の光により魔力の高まりが我が気分の高揚を招く。
くくく・・・・そのおかげで今日は3時まで電子の海で知識を得てしまったわ。
しかし、この闇はこの朝の光によって追いやられてしまう。
朝は私をこの優しくない世界へと強制送還してしまう。
学校へいっていない私には本当に辛い。
朝の光が来ると吐き気すらしてくる。
毎日訪れる1日で1番辛い時間だ。
でも、今日はこの光ですら不快に感じない
だってそれは
私が、不登校という事を気にせず1週間のうち2日だけ訪れる普通の女子高生に戻れる日
そうなんてったって今日は日曜日なんだから!
あーもう!
布団の中でゴロゴロしてるのって気持ちよすぎ!
眠りと目覚めの狭間で意識をまどろんでいるのって最高よね。
今日は梨子さんと遊びに行く予定はあるけれどまだまだ時間に余裕はある。
スゥ・・・とまた意識が消え去って行く。
この瞬間が1番好きだ。
だが我が安寧の時を邪魔をするものがドアをドンドンと叩き、現れた。
もう何よ!
「善子!あなたいつまで寝ているの!さっさと起きて朝ご飯食べなさい!」
そういって私の部屋に母が怒り声をあげながらはいってきて布団を引っぺがした。
善子「ムぅぅぅリぃぃいいー。まだ早いわよ。今日は3時まで起きてたんだもん。起きれる気がしないー。あぁ・・・なんってこの布団ってアイテムは我を惹きつけるのかしら。これはきっと魅惑の魔法がかかったマジックアイテムよ」
そういって引っぺがされた布団を掴み、再び布団の中に潜ろうとする私を見て
母がはぁ・・・とため息をつき、片手で頭を押さえている。
何よ。別にいいじゃない。今日はなんてったって日曜なんだから。
高校生ならこのくらいよくあることじゃない。
「あなた・・・今日は朝から学校の先輩とお洋服を買いに遊びに行くんじゃなかったの?」
善子「まだ早いわよー。大丈夫大丈夫。」
そういってシッシッと手を振り母を追い出す仕草をすると
「あなた。もう8時よ。本当に間に合うの?」
その言葉に私はバッと立ち上がる。
その姿を見て、やっぱり気づいていなかったというような表情をする。
善子「・・・今何時だって?」
「だから8時よ。だから早く起きなさい」
善子「や・・・やっばあああああああああ!!待ち合わせに遅れる!!!!」
「ほんとあなたって子は・・・何で予定があるのに夜更かししているのよ。」
母はうんざり顔でこれ見よがしにため息をつきながら言う。
善子「それは・・・闇の魔力が私の活動領域を・・高揚させて・・」
とごにょごにょと口ごもりながら答える私をじーっと見つめている。
わ、私だって約束があるんだから夜更かしするつもりなんて全然なかったのよ
だけどこう夜が深まるにつれてなんだか集中力って増していくじゃない?
あと30分だけ 30分だけって考えながらネットしているうちにいつの間にか3時まで起きてしまって・・・
あああ
私が悪かったわよおおおお、反省してるから、だから
善子「お願いいいい!車で駅まで送ってええええ。」
シュバババっと擬音がなるくらい速攻で床に額をこすりつけ土下座をして頼み込む私を見てか、心底嫌そうな声で言った。
「我が娘ながら本当に情けなくなるわ・・・」
身支度を済まし、母の運転する車に乗る。
もう直ぐ駅だ。車の中の時計で現在の時間を確認する。まだ待ち合わせ時間まで5分早い。
これならギリギリ間に合いそうだ。
良かった・・・。
「あ、あの子よね。あなたから見せてもらった写真の子」
私に確認してみてみなさいと首を一瞬横に動かす。
駅のロータリーには腕時計で時間を確認している梨子さんの姿が見える。
私は母に向かってガクガクと頷いてみせる。
善子「そうよ。あの子であってるわ。ま、間に合ったああああ。良かったあああ」
良かった。遅刻しなくて済んだ。
私は心の底から安堵の息をつく。
せっかくのショッピングなのに初っ端から出鼻挫くわけにはいかないわよ。
「それじゃあ、あの子の位置まで車寄せるわね」
サラッと母が私に向かって言う。
善子「やめて!ここでもう大丈夫!!」
私は慌てて母にここで降ろすように説得し始める。
やっぱり多感な高校生として見ては中々自分の親を友達に前に出すのは躊躇ってしまう。
しかもこの母親のことだ。絶対余計な事を梨子さんにいうに違いない
「何いってるのよ。私もアナタが迷惑かけてないか挨拶しておきたいし」
善子「ほら、もう!そう言うのが嫌なの!!!もう本当に大丈夫だから!!!降ろして!」
「はぁ・・しょうがないわね。じゃあここに停めるわよ。」
母は私の必死の説得に渋々頷くと左に車を寄せ、ハザードランプを点滅させ車が停車する。
私は停車したのを確認すると同時に急いで降りようとドアに手をかけると
「待ちなさい。 」
と声をかけられる。
善子「何?遅れちゃうから早く行きたいんだけど!!」
「ったく、この娘は・・・。ほら、楽しんできなさい。無駄遣いはしないようにね」
そう言うと母は財布をかばんから取ると中からお札を三枚抜き出し、私に差し出してきた。
えーと・・・これ全部諭吉じゃない。
さ、3万円!!???
善子「ちょ!こんなにいらないわよ。私だって貯めてたお小遣いあるし、大丈夫よ。返すわ!」
このケチな母親がこんなにお金を渡してくるなんて絶対におかしい・・・
何か裏があるに違いない・・・
「あなたねぇ・・・スカート一つ買うにしても良いものを買おうとしたらそれなりにかかるものよ」
善子「えー・・・スカートなんて1980円位で買えるでしょ。」
「やっぱりそんな認識でいたのね・・・絶対後悔するからアナタ持って行きなさい!大丈夫。変な意味は無いわよ。あなたに今までこういった女の子らしいところにお金使ってあげられなかった分よ。」
善子「そこまで言うなら貰っていくけど・・・」
そりゃこれだけお金貰えたのなら、素直に嬉しい。
こんなに貰えたのなら、梨子さんとダイビングだって出来そうだ。
少し残しておこうかしら。
私が梨子さんの元へと歩いて行く。
待ち合わせをしている人達は何人もいるが、その中でも梨子さんは洗練された雰囲気を漂わせ、断トツで目立っている。
自分のことじゃ無いのに私はなんだか誇らしい気分になる。
善子「おはよう。リリー。ごめん。待たせちゃった?」
梨子「おはよう。よっちゃん。大丈夫よ。私もさっき来たところなの。・・実は少し寝過ごしちゃってお母さんに送って貰っちゃった。」
そういって申し訳なさそうに照れ笑いをする梨子さんを見て、
私もそうだったといって2人で笑い合う。
あぁ・・なんてこの人といると凄く幸せな気持ちになれるのだろう。
自然体の私でいて良いんだと感じさせてくれる人だ。
梨子「さーて、いきましょ。ちょっと遠いところだけど旅費は私が出してあげるから心配しないでね。」
そういって梨子さんは駅構内へと足を進める。
りょ・・旅費ってどういうこと。
善子「ちょ、ちょっと待って! 旅費ってどこに行くつもりなのよ!」
私が慌てて梨子さんに尋ねるとニコリと笑っていう。
梨子「東京よ」
え・・・・ええええええええ
とととととととと東京!!!!???
善子「東京ってあの東京!?」
私は慌てて梨子さんに聞き返す。
梨子「ええそうよ。それ以外に東京ってある?」
冗談ぽく梨子さんははにかみ、
梨子「ほら、よっちゃん東京への憧れを凄く語ってたじゃない?なら折角服を買いに行くなら私も知ってるお店の方が色々紹介できるし丁度いいかなぁって」
とはしゃいだ様子でいたが、唖然として言葉を出せないでいる私を見て梨子さんの目が不安そうになる。
梨子「も・・・もしかして嫌だった・・・?
」
その言葉に私はブンブンと首を横に振る。
善子「あ、違うの。そうじゃないのよ。ほら・・なんていうか東京ってそんな簡単に行けるとこじゃないっていうか、そんな軽いノリで東京行っちゃうのに驚いちゃったっていうか・・」
梨子「なぁにそれ。 」
私が言葉に詰まっていた理由を聞いた梨子さんはクスっと笑い出す。
梨子「よっちゃん、別に東京なんてたいしたことないわ。気負いすぎ、パッと行ってパッと帰ってくるだけよ?」
善子「いやいやいや!!気負うから。普通にするから!!!、たいしたことあるから!!!こんな田舎の女子高生にとっては東京に行くって物凄いイベントなんだから!」
梨子「東京なんてここから電車で2時間もあれば着いちゃうのよ?それにうまくやりくりすれば切符代も二、三千円くらいで済むわ。」
本当に大したことないと言った風に彼女は言う。
私も東京に行ったこと自体は何度かある。
初めて行くわけではない。
だけどそれは親と一緒に行ったから値段も知らなかったし
小さい頃だったから凄く遠くてなかなか行けない場所というイメージが付いていた。
実際東京に行くのなんて本当に大したことないのかもしれない。
梨子「さ、どうする?行く?行かない?どっちでもいいけど早く決めないと行くのなら乗り遅れちゃうわ。電車に乗り遅れちゃうと無駄に時間とっちゃうわよー?」
私の顔をニヤニヤとした表情で見つめながらいう。
もう私がどっちの答えを言うかなんて分かっていて言っている。
ずっと憧れていた場所なんだから。
善子「わ、分かったわ。行ってやろうじゃない!魔都東京へ!」
梨子「そうこなくっちゃね。」
そうして私たちは駅構内へと向かって歩き出すとすぐに私はあることに気づく。
善子「ああああああああああああ!」
梨子「今度はなぁに、よっちゃん。いつもの発作?」
善子「違うわよ!せっかく東京行くんだったらもっとそれに適した格好してくるんだったなと思っただけよ。」
そう言って私は自分の服を見て言う。
こんな地味な格好ではきっとハイセンスなシティガール シティボーイなどの魑魅魍魎が蠢く魔都東京では浮いてしまう!
こんなの田舎者丸出しじゃない!
梨子「その服良く似合っていると思うけれど・・・ちなみにどんな格好が東京に似合うと思っているの?」
そりゃあ
善子「ゴシックのドレスを着て、背中にはマントと黒い羽をつけて、頭には」
そういって嬉々と語り出す私を見て梨子さんがぼそりと呟く。
梨子「やっぱりいつもの発作だったわ・・・」
東京に向かう電車の中で私たちはこそこそと同人誌の話題などをしていた。
あの借りた本良かったとか、今度私の持ってるやつ貸すわとかあのカップリングがいいだとか擬人化は甘えだとかそんな腐った話ばかりしていた。
東京に行くまでには何本か電車を乗り換える必要があったが
梨子さんはどの電車に乗ればいいのか手慣れた様子で私をグイグイと案内してくれる。
梨子「さ、もうすぐ東京よ。あっという間だったわねー。」
善子「ねぇリリー・・本当に良かったの?電車代払って貰っちゃって」
梨子「良いのよ。私にはもうお金を使いたいものなんてほとんど無いんだから。それならよっちゃんと遊ぶほうに使いたいわ」
善子「ダイビングは・・・良いの?海の音が聞きたかったんじゃ無いの?」
梨子「あー・・・あれは、冗談みたいなものよ。気にしないで。別にもう別に聞きたくなくなったわ。」
善子「でも・・」
梨子「大丈夫。これが私の幸せなんだから」
そういっていつものにこりとした笑顔を見せられると何も言えなくなり俯いてしまう。
この笑顔は本当にずるい。
梨子「さ、よっちゃん。外見て見て。もう東京に着くわよ」
そう梨子さんに促され、私は外の景色を見る。
そこにあったのは内浦、沼津とは全く違う光景だった。
目に見える景色の全てに大きなビルが存在している。
と・・都会だ。本物の都会だ。
すごい・・
東京だ・・・
私本当に東京に来たんだ!
東京だーーーーーー!!!!!!
梨子「やっぱり都内は人が多いわねー。久々に来ると住んでいた私でもそう思っちゃうくらい」
東京に着き、駅を出て私はあまりの人の多さに圧倒される。
しかし、ここで怯んでいては田舎者だとこの人達にバカにされてしまうことだろう。
こ、この私がこの程度の事で驚愕してしまう事などあってはいけないわ。
善子「ふ、ふふ。まぁまぁといったところね・・・くくく・・・ここが邪悪なる人間たちの集いし魔都東京・・・実にこの私にふさわしいところだわ・・・。あぁ・・・ついにこの私がここへ召喚されてしまったのね!私を呼び出したのは一体どこの人間なのかしら!?さぁ我が呼び声に応えなさい!愚かなものよ!」
私はいつものごとくカバンに忍ばせていたマントを取り出しバッと靡かせる。
・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・・
あれ?
なんかおかしいわ。
いつもならじろじろと私のことをみんな見て来るはずなのに
誰1人として私に目を向けることもなく、何かに追われているように大人から子供までスタスタと歩いている。
何度か沼津でも目を合わせられないことがあったが、それとはまったく別の感じだ。
無関心とでも言えばいいのだろう。
こ、この私に注目しないだと・・・
恐るべき魔都東京・・・
善子「く・・・なんてこと・・どいつもこいつも虚ろな目をして歩いているわ。きっとこれ闇のオーラのせいね・・これもきっとダークキャッスル東京タワーから発せられる電波によって操られているのだわ。」
梨子「ねえ・・私たまによっちゃんが何を言っているのか本当にわからなくなるときがあるのだけれど・・」
そう言って梨子さんが額に手を当て呆れたようにため息をつく。
梨子「それに城というのなら都庁か今ならスカイツリーじゃないかしら」
善子「良いの!私にとっては東京タワーが東京の象徴なんだから!東京タワーが魔城なの!!!」
田舎者の私からして見たらやっぱりポッと出のスカイツリーよりも東京タワーこそが憧れなのよ!
梨子 「さて、そんなよくわからない話は置いといて、よっちゃん お腹空いてる?」
善子「ちょ!!スルーしないで! ・・・・まだそんなにお腹空いてないわ。」
梨子「そうよね・・私もまだそれほど空いてないし・・・時間にまだ余裕もあるわね・・よし!ならお昼より先に早速ショッピングといきましょうか!私の行きつけのお店紹介するわ」
それから私は梨子さんに連れていかれるがままにお店へと連れてこられた。
・・・
明らかに高そうなお店なんだけど大丈夫なんだろうか・・・
物凄くおしゃれな門構えに私は怯んでしまう。
絶対これ スカート1980円で済まないお店だ・・
良かった・・・本当に遠慮せずにお小遣い貰って置いて正解だったかもしれない。
梨子「そんな構えなくても平気よ。店構えは立派だけど値段はリーズナブルだし・・それに 私ここなら結構顔が効くから、サービスして安くしてもらいましょ」
そう言って梨子さんはペロっと舌を出す。
ズルイ・・何しても本当に可愛いなこの人・・・
店内に入ると 「お久しぶりですー。」と梨子さんは知り合いらしき店員に挨拶している。
「わ、梨子ちゃーん。いらっしゃーい。久しぶりー 静岡に引っ越しちゃったんじゃなかったのー?ずっと心配してたのよ。大丈夫?」
そう言って店員が梨子さんの元へと駆け寄り、手をギュッと握っている。
あ・・本当に知り合いなんだ。
よくこう言う店員さんと仲良くなれるなぁと感心する。
梨子「心配をおかけしてしまってすいません。静岡では楽しくやってます。それで今日は友達と服を見に、遊びに来たんですー。ね、よっちゃん。」
そう言って私を紹介するように梨子さんが私に視線を向ける。
よし・・・私も堂々としなきゃ梨子さんに恥をかかせてしまうわ。
堂々と 堂々とするのよ。善子
今の私なら堂々とできるわ。
この魔都東京に来てからなんだか力が溢れてくるようだわ。
ふふ
ふふふふふ
私はヨハネ。ヨハネなのよ!
さぁ、私のことを教えて差し上げるわ!
ヨハネ「ふ、我はよっちゃんと言われているが真名はヨハネ。そこの人間。私にふさわしいダークコスチュームを用意することを許可するわ!」
き・・決まった。堂々と言えたわ!
・・・・
あれ?
苦笑いを浮かべている店員に向かって梨子さんが頭を抱えながら言う。
梨子「とまぁ、こんな感じの子なんです・・・何か似合う服ありますか・・?」
「・・・・なるほど」
強気の姿勢で宣言したは良いがそのテンションが持っていたのは最初だけで
だんだんと私は落ち着かなくなってくる。
私は普段こういったお店に来ないせいでどうも調子が出ない。
所在無さげに梨子さんと店員さんの後ろをうろちょろしながら店内を見回っている。
梨子「ね?よっちゃんの希望とかある。トップスはどういうのが良い?」
トップス?
なんじゃそりゃ。
トップレスの間違いのことかしら?
いや・・・絶対違うわよね。いくらなんでも服屋で上半身裸になるとか意味わからないし・・・
梨子さんが言ってることがよく分からずごまかすようにうーんと考え込むポーズをすると
梨子「私個人的にはよっちゃんにはワンピよりもやっぱりブラウスとかの方が似合うと思うのよね。」
と言葉を続けてきて私は更に困惑してしまう。
えーっと・・・
ブラウスって梨子さんがよく着てるあのワイシャツみたいなやつで良いのよね。
ワンピースもあれよね。
某漫画のあれじゃなくて、確か上下繋ぎの服のことよね。
ふふん そのくらいは知ってるわよ。
よしよし。
必死に梨子さんの言葉を解読したは良いが直ぐに
「カーディガンも良いと思いますよ。春なのでアウターとしても使えますし、冬にはインナーとしても使えますので」
梨子「あ、確かにそれ良いかも。使い回しが出来るって大事よねー。よっちゃんどう思う?」
アウター?インナー?
ダメだ。全然よく分からない。
もうこういうのはオシャレ上級者に任せることにしよう
下手なことを言って恥をかくのは嫌だし。
善子「ふ、このヨハネはなんでも着こなしてしまうわ。あなた達人間に選ばせてさしあげましょう。好きに選ぶが良いわ。」
はいはい。と苦笑いを浮かべ、
梨子「じゃあ私たちでヨハネちゃんに1番似合う服探してあげるわね」
そういって店員さんと2人で何やら服を探し出し始めるのを私は後ろから眺める。
まぁおしゃれ上級者の梨子さんなら変な服を持ってくることはないはずよね。
・・
・・・・
あ、ちょっと待って。一つだけ要望があったわ。
やっぱりこのヨハネには、黒色が似合うはずよね
善子「少し待ちなさい。人間達。我が望みを伝えるわ。この私に相応しい色は深淵にて絶望の色、そして闇の力を増幅させるカラーそれは」
黒よ、と言いかけた時に店員さんが
「はい。 もちろん津島さんに似合う色を選んで来ました。こちらとってもお似合いになると思いますよ」
善子「げ・・・・」
そういって店員が持って着た服装は白色の薄手のひらひらとしたカーディガンと花柄のTシャツ(カットソーというらしい)だった。
あ・・・あががががが
この乙女趣味全開の服装はヤバい。
いや・・好きな人全然可愛い感じですごくおしゃれでいいのかも知れないが
私の好みはどちらかというとシュッとした感じのスタイリッシュな格好の方が好きだ。
それに白色なんて着たら浄化されちゃうわ!
「あ、いや・・・このヨハネにふさわしい色は深淵と絶望の色の」
梨子「スカート持って来たわよ。よっちゃんはもっと明るい色を選ぶべきねー」
今度は梨子さんはピンク色のミニスカートを持ってくる。
善子「げ・・・・・」
わざとかと思うくらい私の趣味とは真逆な服装を彼女らは持ってくる。
「あら、とっても似合いそうね」
梨子「でしょー。よっちゃんはこういう色の方で可愛らしい格好のが似合いそうよねー。さ、早速あそこで着替えてみて。」
そういって梨子さんは試着室を指差した。
こ、これを私が着るだと・・・
い・・・いくらなんでもきついんですが
他のを持って着てとお願いしようと梨子さんに言おうとすると
店員さんと梨子さんは私をニヤニヤとした表情で早く着替えないのと見つめていた。
しまった・・・やられた。
最初から私にこういう服を着せるつもりだったのだ。
せ・・せめて
善子「黒色・・・黒色は無いの!?せめてこの服でも良いから黒色を用意して!」
必死に梨子さんに泣きつくように懇願してするが梨子さんは笑いながら
梨子「ありませーん。黒色はありませーん。」
と首を横にブンブンと振る。
「黒色はどうしても重くなりがちですのでお店としてはオススメはこちらですよ。」
善子「無理無理!!!こんな明るい色を着たらダークヨハネじゃなくてシャイニングヨハネになってしまう!」
梨子「良いじゃない。無理して邪悪なキャラをするよりも、こっちの方が楽よ。」
善子「キャラとか言うなあーーー!!!!!」
それから何分も必死に抵抗する私を見て、梨子さんは、はぁ・・・とため息をついたあと
梨子「ね?一般的な女子高生に人気な色ってどんな感じの服が多いかわかります?」
「そうですね。やはり今の春の時期ですと黒色や寒色系よりはやはり明るい色の方が人気ですね。」
梨子「ま、その通りよね。 だってさ、よっちゃん。じゃあ着て見ないといけないわね」
善子「いやいやいや!!何でそうなるのよ。」
梨子「だって『普通 』を目指してるんでしょ?ならここで逃げちゃいけないわよ。」
そういって梨子さんは私をただじっと見つめる。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
善子「あー!!!!!もう!!わかったわよ!!!良いわよ。着てみせようじゃない!!!シャイニングヨハネを見て、後悔しないでよね!」
試着室から出た私を見て梨子さんが感嘆の声をあげた。
梨子「お、見事な今時の女子高生になったわね」
「とってもお似合いですよ。梨子ちゃんのお友達だけあって可愛いですね。 」
そういって店員さんと梨子さんは顔を見合わせて笑い出す。
善子「こ、こんな辱めをこ、このヨハネに与えるとは・・・に、人間どもめ 」
梨子「なぁにその照れ隠しは。もっと素直に受け取りなさい。
・・・本当によく似合ってるわよ よっちゃん。どう普通の女子高生になった気分は?」
善子「・・・まぁまぁね」
私は自分の後ろにある鏡へと向き直り、自分の姿を見つめながらぼそりと呟いた。
よし、これに決めた。梨子さんが真剣に選んでくれたんだもの。
多少・・・いやかなり自分のセンスとは違うことには目を瞑ろう。
さておいくらなのよ。この服どもは。
服の横につけてある値札をチラりと確認すると顔がピクピクと引き攣りだす。
うおおおおおお・・・・・
お金貰っておいて良かったああああ・・・
値段を見てガクブルしている私をよそに店員さんは梨子さんに話しかける。
「梨子ちゃんはどうします。いろいろ新しいの入ってますよ。」
梨子「あー・・・ごめんなさい。私は今日は買う予定無いの。よっちゃんのを探しに来ただけだから」
「そうですか。ではまた何かありましたら呼んでください」
梨子「ええ、ありがとう。」
「すいません。この色のサイズ違いって置いてありますか」
「はい。そちらの商品ですね。在庫確認してまいります。」
また別のお客さんから店員さんは話しかけられ、店の奥の方へと歩いていく。
善子「リリー 買わないの?」
梨子「うん。私は良いのよ。ね?それより、その服プレゼントしてあげよっか?」
私は慌てて梨子さんの提案を断る。
善子「いやいやいや! 大丈夫!私だってお金持ってるし!」
貰ってきたお金だけどね・・・・
梨子「そう?遠慮なんかしなくて良いのよ?もう私なんかがいくら着飾っても無駄だもの。必要ないし、もうお金なんてあんまり使いたいものなんてないんだから。ほら、買ってきてあげるわね」
そういっていつもの笑顔を見せる。
朝もそうだったが、いつもならこの笑顔を見せられると私は何も言えなくなってしまう。
梨子さんは時たまこのような自虐とも取れるような発言をする。
私にはお金なんて必要ない。
私にはやりたいことなんてない。
といった風に。
この人は私より確かに年上のお姉さんではある。
私と比べても断然大人の雰囲気もある。
最初見たとき大学生かと勘違いしたほどだ。
でも、それでも梨子さんは私と同じ高校生だ。
こんな歳でそんな悟った風な事は言って欲しくはない。
捨てるようにお金を使って欲しくはない。、
だから今回ばかりは友達だから言わなきゃいけないこともある。
私はうつむきながらも拳を握りしめていう。
善子「・・・いらないわよ」
私の言葉が意外だったようでありゃと 声を漏らす。
梨子「やっぱりあんまり気に入らなかった?それならまた別の服探そっか。どういうのがよっちゃんに似合うかしらねー。」
そういってまた別の服を探し出そうと歩き出す梨子さんの手を掴み、呼び止める。
善子「違うの!なんでそんな考えになっちゃうの!?ねえ、リリー 私たち友達だよね?」
梨子「少なくとも私はそう思っているわよ。」
善子「なら、こういうのやめない?だってリリーもお金足りなくなるわ。」
梨子「あ、そのこと?全然気にしなくて良いのよ。言ったでしょ。必要ないんだって」
全然大丈夫よと言わんばかりの態度を梨子さんは崩さない。
こ、こここここここここの!
善子「・・・このバカっ!なんって分からず屋なの!」
私の叫び声にどうしたんだと店内中の視線が集まる。
普段の私ならこんな注目を集めたりしたら尻込みしてしまうが今は梨子さんに腹が立ってしょうがなく
そんなの気にもならない。気にしてなんかいられない。
梨子「よ・・・よっちゃん。ど、どうしたのよ。私なにかしてしまったかしら。」
善子「なんでここまで言わなきゃならないのよ!一方的に何かしてもらうばっかりってイヤなの!こんなの友達じゃないわ。こんなんじゃペットと何も変わらないわよ!」
梨子さんにあってからずっと感じてた心の奥底の違和感を全てぶちまける。
善子「友達ならギブアンドテイクでしょ!そんなになんでもかんでもお世話されるのはイヤなの!私だって梨子さんに奢ったり、プレゼントだってしたいの!それが友達ってもんでしょ!?」
梨子さんはただ、黙って私の言葉を聞いている。
善子「それに何より私がムッッッカつくのは、私の大好きな梨子さんの悪口を言わないでくれる!?自分にはしたいことなんて何もない?はあああ?意識高い厨二病みたいなこと言わないでくれる?良い?私は梨子さん大好きなんだから自分を貶すようなセリフこれから禁止ね!わかった!?」
もう言いたいこと全てぶちまけてスッキリした。
梨子さんにこれで嫌われてしまうことがあったとしても言わなきゃならないことだ。
だって私は梨子さんの友達なんだから。
梨子「そっか。そうよね。ごめんね。ずっと友達なんていなくなってたから忘れちゃってた。何でもかんでもお世話するのがいいわけないわよね。ダメね わたしって・・・」
善子「ふん、分かればいいのよ。」
梨子「ねぇ、よっちゃん。私もあなたのこと大好きよ」
その後私たちは買い物を済ませこの東京の街を梨子さんが選んでくれた服を着て、あてもなくただプラプラと歩いている。
この服はもちろん、梨子さんにプレゼントされたものではなく自分で買ったものだ。
先程本音をぶつけ合えたことでわだかまりも消えたは良いのだが
どうもぎこちなさが少し残ってしまっている。
この程度のぎこちなさなら多分すぐに元どおりになれるとはわかっていてもやはり居心地が良くない。
この空気を変えようと私は別の話題を振るために梨子さんへと声をかける。
善子「ね、ねぇ、リリー。お昼」
どうしよっかと言おうとするが、その台詞はまた別の声にかき消された。
「ねぇねぇ!お姉さん お姉さん!お姉さんたちめっちゃ美人で可愛いっすね!」
男二人組が私たちの目の前に立ちふさがり声をかけてきたからだ。
・・
・・・・・
えーと・・・
こ、これは俗にいうところの・・な・・・ナンパ!?初めてされた!と・・都会やべー!
「もし暇だったら遊びに行きませんかー?」
え、え、こういう場合ってどうしたら良いんだろう。
普通に断って良いのかな・・。でも、下手な断り方したらなんかしつこくされそうだしどうしよう・・・
私がどうしたらいいものかと悩んでいると
梨子「はいはい。そう、私たち美人でしょー。だからとっても忙しいのよ。ごめんなさいねー」
梨子さんは彼等と目も合わせずにシッシッと軽くあしらっている。
そんな梨子さんを見て、ナンパしてきた人たちも、そっかーごめんねー。と後腐れなくサッパリとその場から去って行き、また新しい女性へと声をかけていく。
なんというか・・・手練れだ。あの男たちも、梨子さんも。
東京に住んでる人はみんなこんなものなのだろうか。
梨子「まったく。あーいうのは可愛いと思った子に手当たり次第声をかけてくからタチ悪いわよね。」
善子「・・・リリーなんか凄い手慣れてるね。」
梨子「まぁねぇ。静岡と東京とではまた違うでしょうけど女子高生が外歩いていれば声くらいかけられるし慣れっこにもなるわ。」
珍しいことじゃないと梨子さんは答えるが私の心中は微妙だった。
あの・・私は・・・今までナンパなんかされたことなかったんだけど・・・・
どんだけヤバそうな女に見られてたんだろうか・・・
そんなに私の今までの服ってまずかったのだろうか・・
あんなに可愛いのに・・
善子「でも慣れっこだったとしても、あんなぶっきらぼうに断って怖くないの?なんか仕返しとかされたりしそうじゃない?」
梨子「ぜーんぜん平気よ。あの人達も失敗前提で話しかけてきてるわけだし、適当にあしらっていいのよ。それにしつこくされたら警察呼ぶだけだしね。」
善子「凄いわね・・・。私はナンパなんかされたの初めてだから焦りまくりよ・・・・やっぱリリーが一緒にいるとナンパされちゃうしすごいなぁ・・」
梨子「なーに言ってるの。ナンパされたのは『私達』でしょ。可愛いわよ。よっちゃん。」
そういって梨子さんはニコりと微笑みながら私を見つめる。
あ、この服のおかげか・・・
私は親指と人差し指で服を摘み、自分の服を見る。
梨子「ふふ、客観的にも立派な今時の女子高生にも見られたってことよ。喜びましょ。」
善子「立派な女子高生かぁ・・・私達二人とも不登校なのにね。」
梨子「ほんとどうしようもないわよね・・・あの人達もきっと気づいてないでしょうね」
そういうと私達はお互いの顔を見合わせてクスクスと笑い合う。
梨子「おっかしーわね。学校には行かないのに東京に来て、服着て遊ぶなんてね」
善子「ダメ人間にもほどがあるわよね・・・」
梨子「ね、よっちゃん。お昼食べに行こっか。東京に来たんだもの。もっともっと楽しみましょ。」
善子「うん!」
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